空間/人をデジタル再現した効果検証! VR空間でスピーチトレーニング

Field :

2022.04.12

FacebookがMetaへ社名変更するなど、最近メタバースという単語を目にしない日がないくらいバズワードとなりメタバースが盛り上がりを見せています。イノラボではオフィスを3D再現しデジタル空間でのコミュニケーションを検証してきました。(VRでISIDオフィスに出社してみた!オフィスの3D再現とVRコミュニケーション)現実を再現した空間や人のデジタルデータをコミュニケーション以外の用途で使えないだろうか?と検討し、今回はスピーチトレーニングへの活用を検証しました。

 

奥野 正寛

奥野 正寛
変革エンジニア

岡田 敦

岡田 敦
空間テクノロジスト

渋谷 謙吾

渋谷 謙吾
モノを動かすエンジニア

現実を再現するとスピーチトレーニング効果が高まる?

近年、VRを活用した暴露療法で恐怖症を治療する取り組みや、スピーチ練習にVRアプリを利用するなどVRの活用が広がっています。既にこのようなアプリ、サービスは世の中にたくさんありますが、これらのツールの多くは”ありそうだけど現実と違う仮想世界”を構築していました。

 

我々は以下の仮説を持ちました。
「現実同様の空間と人をリアルに再現したVR空間でスピーチトレーニングを行うとイメトレより強く体験を記憶させることができる。その結果、現実で行う本番では環境への慣れを感じさせたり、事前トレーニングで得られた成功体験が想起され、不安や緊張を低減させる効果がある」

スピーチトレーニングに着目した背景として、採用面接において受験者の方が本当は素晴らしい力を持っているにも関わらず、最終面接で緊張しすぎてしまい本当の力が発揮できず落ちてしまうという事例が挙げられます。会社として本来であれば獲得すべき人材を逃してしまう機会損失、採用コストの無駄が発生することにつながるため、大きな課題であると認識していました。

バーチャル再現の効果を確認する実証実験を実施

現実空間を再現したものと、現実とは関係ないVR空間を用意し、それぞれのVR空間でスピーチトレーニングした際の効果の違い、特に不安/緊張に着目して実証実験を実施しました。
【実験概要】
実施時期:2021年12月
参加者:被験者8名、スピーチ聴講者4名
実験方法:
1. 非リアルグループとリアルグループに被験者を分けて実施

2. VR空間で聴講者のアバター(ロボットorリアル)に対して5分程度のスピーチ
・HMDとしてOculus Quest2を利用
・聴講者は遠隔からアバターに入ってリアルタイムに参加
・リアルアバターは本番で対面スピーチを聴講するメンバーを再現

3. 約30分休憩した後、現実世界で対面にて同様のスピーチを実施
計測データ:
・実験中の心拍数
・状態不安(STAI)、感情変化(PANAS)
・主観評価、定性的な意見などをヒアリング
※練習前、練習後、本番後にアンケート実施

 


実験の流れ

 


スピーチトレーニングの様子

 


現実世界のスピーチ本番の様子

実験の実施にあたって被験者としてISID社員だけでなく、ISIDの内定者の方々にもご参加いただきました。(参加いただいたみなさま、ご協力ありがとうございました!)

結果:スピーチの練習と、緊張の抑制は別軸の話

非リアルグループに対してリアルグループの方が、トレーニング後の不安尺度(STAI)が高く出て、かつ本番時の心拍数上昇率がより低く抑えられました。
このことから仮説通り、現実の空間や人をリアルに再現すると「VRトレーニングで緊張させて、本番の緊張を抑える」効果が得られる結果となりました。
一方で被験者の主観的評価として、非リアルグループの方がトレーニング効果や満足度、ポジティブ感情などが高い結果となり、練習という意味でのスピーチトレーニングの効果はむしろ現実空間を再現しない方がよいかもしれないという示唆が得られました。理由として非リアルグループでは聴講者がロボットアバターのため非現実的で、エンタメ感やゲーム感が感じられたことが起因したのではと考えられます。例えば動物や好きなキャラクターに対して話したり、憧れの人物のアバターに入り、その人なりきって練習することでプロテウス効果を活用するなど、VRならではのトレーニング方法により高い効果が得られる可能性があります。
今回、聴講者のアバターはリップシンク等の表情再現を入れていなかったため、「相手の目線、表情読み取れないので話し方を変えるといった軌道修正が出来ない」といった意見が挙げられ、スピーチにおいて聴講者から読み取る非言語情報の比重は大きく、VRトレーニングにおいても重要であることが分かりました。
弊社のTech Blogにリアルタイムフェイスリグに関する記事があるのでご興味ある方は是非ご覧ください。(バーチャルヒューマンをリアルタイムフェイスリグで動かす

 

XR技術の社会実装を目指して

今回の実験を通して現実世界を再現するだけでなくVR上だからこそ出来る、現実世界よりも効率的なトレーニング方法がある可能性が見えました。メタバースの盛り上がりなどに合わせてXR技術はソフト・ハードどちらにおいても飛躍的に進化しており、今度も更なるテクノロジーの進化が期待されます。
幻肢痛のセラピーにVRを活用するなど(幻肢痛VR遠隔セラピーシステムが2021年度グッドデザイン賞を受賞)、我々イノラボではこういった新しいテクノロジーを社会実装し、様々な課題解決やビジネス活用に取り組み続けたいと考えております。
こういった取り組みへご賛同/ご意見がありましたら、お気軽にお問合せ下さい。未来の姿を描いて、是非一緒に取り組みましょう。