VRでISIDオフィスに出社してみた!オフィスの3D再現とVRコミュニケーション
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近年コロナ渦によりテレワークが広がる中、対面と同じような感覚の遠隔コミュニケーションが求められています。イノラボでは「全身トラッキング型VR遠隔コミュニケーションシステム」の開発などVRやAR技術の研究開発を進めてきました。本プロジェクトでは近年の低廉化で利用しやすくなった3Dデータ作成技術に着目し、オフィス空間や従業員をデジタル化してVR上に再現した遠隔コミュニケーションを検証しました。

奥野 正寛
変革エンジニア
バーチャルコミュニケーションとVRヘッドセットの広がり
近年、デジタル空間に伊勢丹新宿店を構築した「REV WORLDS」や池袋の街を構築した「池袋ミラーワールド」の登場、3D都市モデルをオープンデータ化する国土交通省の「PLATEAU」、東京都の「デジタルツイン実現プロジェクト」などデジタルツインの取り組みが広がっています。
またコロナウィルスの影響によりテレワークが拡大し働き方が変化する中で普段の仕事でMicrosoftのTeamsやZoom、Slackといったツールが広く利用されるようになりました。一方で今までのように対面で話すようなコミュニケーションが求められており、Cluster等のバーチャルコミュニケーションツールでイベントが開催されるなど遠隔であることを感じさせないコミュニケーション体験の取り組み事例が増えてます。
こういったバーチャル空間を没入体験するためのインターフェースとして、ヘッドマウントディスプレイ(以降VRヘッドセット)が使われています。ヘッドセットは高性能なPCが必要で高価なシステム構成であるため、なかなか気軽に使うことが出来ないものでした。しかし、近年はVRヘッドセットの低廉化が進んだことで広く普及しつつあり、コンシューマー用途、ビジネス用途どちらにおいても活用が広がっています。
(出典:https://www.mlit.go.jp/plateau/)
(出展:https://cluster.mu/)
一般的になってきた3Dスキャン
現実世界をVR等で利用できるようにバーチャル再現するためには現実世界をスキャンする方法と、3Dモデリングなどでゼロから作成する方法の主に2種類のアプローチがあります。
これは数百~数千万円の高価なレーザースキャナーが必要だったり、専門家による3Dデータの作成が必要だったりと手間やコストのかかる領域でした。しかし最近はフォトグラメトリ技術(複数の写真から3Dデータを生成する技術)の進歩や、iPhone/iPadにLiDARセンサー(レーザー光を照射し、物体に当たって跳ね買ってくるまでの時間から物体までの距離や方向を測定する技術)が搭載され、様々なスキャンアプリが登場するなど、現実世界をスキャンする方法がより身近なものになってきました。
今回我々が利用したMatterportは簡単に実空間の3Dデータを作成できるツールで、高価なレーザースキャナーと比較して比較的安価に利用できます。スキャンした空間の360度カメラ画像や3DデータをWebサービス上で編集/公開できることが大きな特徴で、オプションのMatterPakを利用することでobj形式の3Dデータやxyz形式の点群データを取得することが可能です。
(出展:https://matterport.com/ja)
現実世界をバーチャル化したいうニーズを考えた際、いきなり数百万~数千万と高いコストをかけることは難しいとを想定し、比較的安価に利用できるMatterportでどこまでバーチャル空間を再現できるか検証しました。専用のカメラ「Matterport Pro2」を使い、弊社ISID品川オフィスの様々なエリアを3Dデータ化。VR空間で見栄えや品質を確認したところ、空間の3Dデータ化においてMatterportを使うメリットや課題が明らかになりました。
【メリット】
・広い空間を安価かつ短時間で均一的に3Dデータ化(.obj)できる
・ある程度精度感のある点群データ(.xyz)が取得できる
・3Dデータのデータ効率がよい
【課題】
・小物など小さな対象物(~数十cm)や細かなテクスチャの取得が難しい
・ガラスや鏡などの物質は取得が難しい
メリットに関して
Matterportは比較的安価なツールですが短時間で広い空間の3Dデータを取得することができ、cmオーダーの点群データが取得できます。高価なレーザースキャナーはmmオーダーと高精度であることから建築業や製造業などの現場で主に利用されますが、Matterportは空間再現や高い精度を求めない3Dデータの取得に向いてます。iPadで利用できるスキャンアプリで取得できるデータと比較してみたところ、広さに対するデータサイズやメッシュ数が小さくデータ効率がよいことが分かりました。
課題に関して
空間全体を均一に撮影するため、小物など小さなものや細かなテクスチャは綺麗に3Dデータ化されませんでした。またガラスや鏡などはうまく3Dデータ化できませんでした。これは光を照射し反射により測定するスキャナー共通の課題と考えられます。
VRで綺麗な空間データを再現したい場合、小物は別のツールなどで3Dデータ作成する、鏡などの物質の部分は模擬した3Dオブジェクトを配置するなどの対応が必要となります。この辺りは求める空間クオリティに応じて実施するとよいでしょう。
現実のオフィスをVR空間に再現
Matterportで取得した3Dデータを基に現実のオフィスをVR空間に再現したコミュニケーションツールを作成しました。MatterportのデータをWebブラウザー上で閲覧したり360度画像をVRで閲覧する事例は多くありますが、VRで見れるバーチャル空間に活用した例は少なく、今回作成したオフィスのバーチャル空間へVRで入った場合にどのような没入感、スケール感が得られるか検証しました。
実際にVR空間に入ると慣れ親しんだオフィスが目の前に広がり、会社に出社したかのような感覚となります。空間サイズは現実世界と同じになるよう調整しているため本当のオフィスにいるスケール感が得られ、”会社にいる感じ”といった高い没入感が得られることが分かりました。一方で空間のテクスチャが歪んでいたり質感の違いなどから「ちょっとホラーっぽく感じる」といった意見も挙げられました。
最初はユニティちゃん(© UTJ/UCL)やロボットのアバターを利用し検証を実施しましたが、現実感を高めるために普段一緒に仕事をしているメンバーのリアルアバターを組み込み、同僚と働いている雰囲気をより感じられるVR空間を構築しました。
作成したVR空間でコミュニケーションを複数のイノラボメンバーに体験してもらい、様々な結果を得ることができました。
例えば「会社に行って同僚が本当に会ったような感覚」や「慣れ親しんだ場所だから安心する」といった意見が挙げられ、リアルなバーチャル出社を体験できることが分かりました。他にも、VR空間の中央に立って他のメンバーから注目されると「本当に見られているように感じて緊張する」、「メンバーと一緒にいる一体感が感じられる」といった意見が挙げられ、人と空間を再現したことによる効果と想定されます。
一方でユニティちゃん(© UTJ/UCL)を使っている状態では、「普段やらないのにダンスしたくなっちゃう」といった意見が挙げられ、外見を本来と違う姿にすることで行動変容が起きるプロテウス効果も観察されました。
今回Oculus Questのハンドトラッキング(コントローラーを使わずに自分の手を使ってVR空間での操作が可能になる機能)を使い、コントローラーを使用せず手の動きをそのままVR空間内で再現するようシステムを作成しました。この結果アンケートを挙手で回答したり、回数を問うような質問に指を立てて回答するといったボディランゲージによるコミュニケーションを可能とすることで、「コミュニケーションしやすい」、「コミュニケーションとれた感じがあった」といった意見が寄せられました。
オフィスのデジタルツインの可能性
コロナウィルスの影響によってテレワークが広がり出社する機会が少なくなりました。テレワークは移動時間の削減といったメリットがある一方で、雑談などメンバー間のコミュニケーション減少、エンゲージメント(会社への帰属意識)の低下といったデメリットもあります。今回のプロジェクトで取り組んだオフィスのデジタルツインでは、こういった課題を解決できる可能性があると考えています。
またオフィスという空間をデジタル化することで、例えばオフィスデザインとして家具の配置やレイアウトの検討であったり、オフィス内で動かしたいロボットの制御シミュレーションをバーチャル上で行うといった活用に広がる可能性があります。
イノラボでは今後もVR/ARといったXR技術、3Dデータの活用といったデジタルツインの研究を進めていきたいと思います。こういった取り組みに賛同いただけたり、こんなビジネス活用をしたいといったご意見がありましたら、お気軽にお問合せ下さい。未来の姿を描いて、是非一緒に取り組みましょう。
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