
紙の価格高騰、折込広告の縮小により、チラシのデジタル化ニーズはかねてから叫ばれてきました。しかし、動画広告制作には時間とコストがかかり、紙とデジタルの見せ方の違いから最適化が難しいなど、デジタル化がなかなか進んでこなかった現実があります。
そこでイノラボでは、電通 OOH局・事業共創局とともに、チラシの動画化に向け、従来の課題を解消した、音声付動画自動生成システム「Dynamic3」の開発に着手。既存のチラシデータの中から、アイテムを3つに絞り、アニメーションで魅力的に見せながら、商品名、価格、アピールポイントなどを音声で伝えるシステムを完成させました。
Dynamic3を活用して制作した動画サンプル
今回、開発を進めた比嘉康雄に、サービスの特徴や今後の動画広告のあり方について、話を聞きました。

比嘉 康雄
動画テクノロジスト
紙の価格高騰で表面化した、チラシのデジタル化ニーズと業界課題
チラシの情報をデジタル化して活用するという発想は、これまでも多くの方が考えてきたことです。折込チラシの市場はピークで6,700億円ほどですが、利益率が低く、ほかに効率的な方法があればシフトしたいというのは業界の課題でした。
また、紙のチラシには、何十年も変わらないフォーマットが確立しています。フォントや色、1枚のチラシに掲載する情報量など、効果検証を重ねたノウハウが、改善の余地がないくらいに詰め込まれた世界なのです。
デジタル化となれば、またゼロから検証を重ねなければならず、時間とコストがかかります。紙のチラシに課題があっても、新たな手法に挑戦するのはハードルが高いというのが、現実でした。
業界の意識が変わる契機となったのは、2018年の紙の価格高騰です。折込チラシの印刷数も減少し、デジタルシフトへのニーズが顕著になりました。そこで、電通を中心に、チラシのプロ電通tempo、動画制作を手掛ける電通クリエーティブX、そして技術開発を担う電通国際情報サービス(イノラボ)の4社共同プロジェクトが動き始めたのです。
動画作成をプログラムで行い、時間とコストを削減する「Dynamic3」のチャレンジ
チラシをデジタル化するにあたり、課題は大きく2つありました。1つ目は、動画にすることで、広告効果をどう計るのか、2つ目は、動画作成にかかる時間とコストをいかに抑えるか、というものです。
チラシが動画になった際に効果をどう計るのかというのは大きなポイントでした。ただこれに関してはデジタル化したということもあり、閲覧したユーザー数や閲覧ユーザーの来店率を測ることが可能な為、広告がどれくらいの消費者を動かしたのかを数値化することは難しくありませんでした。これにより、紙のチラシと比べて効果検証がよりクリアになります。これは、デジタルシフトへの大きな説得材料になりました。
2つ目の課題、動画作成時間とコストの抑制については、今回のプロジェクトが動き出す前に展開されていた、他社のチラシのデジタル化サービスでも課題になっていました。発注者とクリエイターとのデザインのすり合わせや完成品の確認やりとりなどで、納品まで1週間ほどかかるのが一般的です。すると、商品や価格がチラシ配布前日など直前に決まる中、即日の対応で印刷して配布してきたチラシ業界にとって、動画ではタイムリーな情報発信ができないという問題があったのです。
そこで考えたのが、動画制作のフォーマットを事前に用意し、発信したい商品の画像とナレーション用のテキストを入力すれば自動で動画を生成できるシステムの構築です。素材を入力すると動画が自動でできる、というシステムをどう構築するか、ここがイノラボの腕の見せ所でした。
図:Dynamic3利用時の流れ
今回開発した「Dynamic3」は、映像制作ソフトウェア「Adobe After Effects(アフターエフェクツ)」をプログラムでコントロールして、動画を自動で生成するアプリケーションです。このアプリケーションを使うことで、紙チラシのillustrator(イラストレーター)のデータを読み込ませるだけで、動画を生成することができます。つまり、動画のために新たに素材を用意する必要も、クリエイターなどの人を介することもなく、動画作成を進められます。素材の入力から数分後には動画ができるようになったため、動画制作の時間とコストが大幅に抑えられることになりました。
アフターエフェクツは、映画、テレビ、CM、Web制作などあらゆる映像コンテンツを作成するにあたり、多くのクリエイターが活用しています。その為、映像制作の目的やアイデアにあわせて活用可能なさまざまな機能があり、ユーザーがそれらを選んで操作することが前提となっています。
だからこそ、「プログラムで動画を作ろう」と考える人がそもそも世の中にほとんどおらず、先行事例や、コードのサンプルなどもほとんどありませんでした。情報がない上に、私自身、アフターエフェクツを触ったのも初めてで、最初のプロトタイプを出すまでの2週間は、「できなかったらどうしよう」という不安との闘いでした。
手に入れられるドキュメント情報には一通り目を通し、わからないことを検索して何もヒントが得られなくても焦らず、可能性のありそうなコードを書いては動作確認をする。そんな地道な作業を繰り返し、「Dynamic3」は完成しました。
また、Dynamic3の開発にあたり、チラシの情報を元に動画を自動生成するだけではなく、いかに視聴者にインパクトを残すか、という点も検討しました。
紙のチラシでは、illustrator(イラストレーター)で電子データ化した商品・価格情報を、数多く掲載します。しかし、動画は、15秒・30秒という限られた時間で、インパクトのある情報に絞らなければ印象に残りません。そこで、発信したい情報を3つに絞り、チラシ用に作成していた商品画像のデータ以外に、ナレーション用テキストをお客様に提供いただくようにオペーレーションを整理しました。
電通グループ4社がそれぞれの持ち味を出して開発した「Dynamic3」
プロジェクト始動から約2か月。2019年6月に最初のリリースを出したあと、1週間で50件弱の問い合わせがあり、出だしは好調でした。2020年度からぜひ導入したいという声も多く、複数の企業と話を進めていたのですが、コロナ禍により状況が一変し、動画広告を出して“店舗に人を集める”こと自体を見直す流れとなりました。その一方で外出自粛や規制に伴いECサイトへの集客のニーズが高まりました。
今後、紙のチラシのデジタル化はますます進んでいく中、Dynamic3も、リアル店舗ではなくECサイトへの誘導促進など、消費者行動の変容にあわせた対応をしていきます。
「Dynamic3」の短期間での開発は、電通グループ4社がそれぞれの持ち味を出し、ビジネス化に向けて総力を挙げたことで実現しました。
電通がチラシのデジタル化という長年の課題意識をプロジェクト化させ、電通tempoの知見から、「電子データを活用し即日で動画を作りたい」というチラシ業界特有のニーズを見つけました。動画コンテンツのフォーマットは、電通クリエーティブXが作り上げ、イノラボは、それらをプログラムに落とし込む。これらの連携により、先例のないシステム開発ができたのです。
ビジネスチャンスがあれば全力で取り組んでいく、新しい領域へのチャレンジこそ積極的に進めるというイノラボの強みを、存分に発揮できたプロジェクトだったと思います。これからのwithコロナの時代にあわせて動画広告とどう向き合っていくのかを検討しつつ、また新たな挑戦をしていきたいと考えています。
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