地方創生

生産者の思いを伝える「横浜野菜」プロジェクト !テクノロジー×デザインの力で地産地消を促進

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2020.09.24

ISIDでは、横浜の地産品の価値向上を目的に、ISIDが開発しているスマート農業データ流通基盤「SMAGt(呼称:スマッグ)」を活用した、横浜野菜の実証販売を行いました。
プロジェクトでは、横浜市泉区のトマト農家さんへ生産者としてのこだわりや地産地消への思いをヒアリング。農産品の生産・流通履歴データとともに、ヒアリングから得られた付加価値情報を活用して、消費者との接点となる様々なアイテムをデザインしました。
この記事では本プロジェクトで、商品パッケージや店頭装飾、Webサイトなど包括的なデザインを担当した鈴木貴裕に聞いた、コンセプトやデザインに込めた思いをお伝えします。

 

鈴木貴裕

 
 
 
 

鈴木貴裕
思いやりクリエイター

宮崎県綾町との実証実験がきっかけとなり、動き出した横浜野菜プロジェクト

横浜野菜の販売実証プロジェクトがスタートしたきっかけは、2016年に行った宮崎県綾町との有機野菜販売プロジェクトまで遡ります。横浜銀行様がその内容に興味を持たれ、「横浜の地産地消の促進に向けて、一緒に取り組みましょう」という運びとなりました。

 

<AYA TO TOKYOプロジェクト>
綾町とのプロジェクトは、町をあげて取り組んでいる有機野菜の価値を、正しく伝えようと行ったもの。生産過程や生育環境をブロックチェーンに記録し、消費者がその情報にアクセスできるよう、商品パッケージにQRコードを掲載。東京のマルシェで販売する実証実験を行った。

https://www.isid.co.jp/news/release/2017/0322_1.html
https://innolab.jp/work/blockchain/899

 

「横浜で野菜が作られていることをもっと多くの方に知ってもらいたい」「地元産ならではのおいしさを伝えたい」との課題意識に対して、イノラボがどう貢献できるのかを検討しました。そこで結びついたのが、ISIDが開発しているスマート農業データ流通基盤「SMAGt(スマッグ)」を活用し、それを軸としたブランディングを行うことでした。商品概要や生産者プロフィール、生産・流通履歴などを確認できるトレーサビリティシステムの「SMAGt(スマッグ)」を軸に、統一感のあるデザインを施すことで、「横浜産野菜」の魅力を伝えられるのではないかと考えたのです。

 

<スマート農業データ流通基盤「SMAGt(スマッグ)」>
https://www.isid.co.jp/news/release/2020/0107.html

 

デザイナーでもある私のミッションは、横浜野菜のブランディングを含めたデザイン全般です。コンセプト、ロゴ、商品パッケージや店頭装飾、Webサイトを包括的にデザインするために、まず行ったのは、現場取材でした。私自身、横浜には“都会の港町”のイメージが強く、“横浜市内で野菜を作っている”ことを想像できていませんでした。横浜野菜のコンセプトを考える上で、どんな人がどんな場所で、どんな風に野菜を作っているのかを知る必要がありました。

 

伺ったのは、横浜市泉区のトマト農家・横山さん。豊かな旨味とコクの強さが売りの高級トマト「サンロード」を手掛けており、この品種を作られている方は全国的にも貴重な存在とのことです。「甘みだけではなく、酸味とのバランスがトマトのうまみを作る」「トマトは緑の状態の時に、色のコントラスト(ベースグリーン)を見ればおいしさが分かる」など、初めて聞く情報が多く、都会的なイメージのある横浜で、こんなにこだわって野菜を作っている人がいることに驚かされました。

 

サンロード(トマト)
横浜市泉区の横山さんが育てたこだわりのサンロード(左)。横浜とは思えない広大なビニールハウスの中で栽培されている(右)。

 

横山さんに話を聞いていくと、横浜という土地の魅力もどんどん見えてきました。関東ローム層に覆われ、多品種栽培ができる豊かな土があること、都心に近いため、配送時間を抑えて新鮮なものを届けられる立地であること。
「おいしく安全な野菜のニーズがあるはずなのに、都会にも地元の方にも横浜産野菜の存在があまり伝わっていなくてもったいない」。横山さんの言葉には、納得感がありました。

 

UIのリデザインで、横浜野菜のおいしさ、生産者のこだわりを表現

都会的で洗練された横浜のパブリックイメージと農家さんのこだわり。双方をあわせてデザインすることで、非常に魅力的な野菜ブランドができるのではないか――。
ヒアリングを経て生まれたブランドコンセプトが、「横濱デリシャスプルーフ」です。

 

横浜野菜ロゴ
コンセプトロゴ(左)と、トマト用のロゴ(右)。今回の実証販売ではトマト用のロゴを使用。他の農産品の場合は、トマトの絵とカラーを可変させて使用するなど、汎用性を考慮したダイナミックアイデンティティ(DI)のアプローチでデザイン。

 

地元でとれた野菜の「おいしさ」と、データで担保される「信頼の証」をブランド名に込め、「横濱」という旧漢字には、赤レンガ倉庫をはじめ横浜の街並みに残る明治時代の香り、歴史のイメージを持たせています。トラディショナルな雰囲気を大切しながら、横浜に憧れをいだく人、横浜が好きな人に、「横浜産の野菜だから手に取ろう」と思ってもらえる、そんな洗練されたイメージを大切にしました。

 

そして、生産者の思いやストーリーを伝える上でこだわったのが、「SMAGt(スマッグ)」の既存のUIを、より温かみのある表現へとリデザインして、UXを高めることでした。

 

SMAGt(スマッグ)UI
スマート農業データ流通基盤「SMAGt(スマッグ)」の既存のUI。産品の育成記録や育成環境などの価値情報を、ブロックチェーン技術によってデータ管理するシステムで、QRコードからサイトにアクセスして、消費者は情報を得ることができる。

 

既存のUIは、データをきちんと伝えることに特化したシンプルな作りになっていました。でも、「横濱デリシャスプルーフ」で伝えたいのは、より手触り感のある育成記録や畑の様子、そして野菜一つひとつに込めた生産者の思いです。消費者がそのこだわりに触れ、「ぜひ食べてみたい」「大切に味わおう」と思ってもらえるよう、より情緒的な表現が必要だと考えました。

 

そこで作成したのが、生産者の思いや生育過程を主軸にした新たなUIです。

 

横浜野菜PJのUI
生産者さん自身の紹介も丁寧に入れ、「この方が作ったものを食べたい」と思ってもらえるようなデザイン、UIにこだわった。

 

野菜ができるプロセスを楽しめる見せ方を意識し、「この方が作った野菜を食べたい」「地産地消に貢献したい」と、消費者が生産者のファンになることを目指して作りました。また、農家さんのコメントが吹き出しで見えるような、親しみやすさを感じさせる表現なども盛り込んでいます。

 

そのような、農家さん個人の思いと生産・流通データ、横浜エリアの野菜としてのブランディングを紐づけて設計することで、「横浜産野菜は確かにおいしい」ことを伝えるとともに、UXを向上させていきました。

 

サイト誘導の仕組み
商品に二次元コード付き商品タグを括り付け、サイトへ誘導する仕組み。

 

生産者と消費者のファンコミュニティから、地産地消の素地を広げていきたい

販売実証を行ったスーパーではいずれも大好評でした。店長さんからは、
「これだけ短時間のうちに完売に至ったのは驚いた」
「消費者への見せ方、伝え方の重要性を改めて感じた」
という声をいただき、アンケートでも、今回のデザインやUXについて好意的な評価が得られました。

 

店頭陳列の様子
店頭陳列の様子。販売後すぐに予定数量がほぼ完売に。同日に販売していた野菜の中で、最も売れた結果になった。

 

今回の実証実験で見えたのは、地元の皆さまの「地産地消を応援したい」という思いです。購入された方へのWebアンケートから、地元産野菜を食べたいというニーズは確かにあることを実感しました。
例えば、「同じ種類の野菜で、産地が異なるものが販売されている場合に、どのような基準で購入したいと考えますか?」という質問に対して、約半数が「地元産の野菜であること」と回答。「特に産地は気にしない」方は1人で、産地情報は消費者の商品選択にとって重要であることがわかります。

 

ほかにも、地産地消に対する思いを聞いたところ、回答者全員が「横浜の地産地消を応援したい」と回答しています。購入する際は「生産者の顔や思い、こだわり」を知りたいという声も多く、地元野菜を受け入れる素地がたくさんあると改めて感じさせられました。

 

今後、生産者と消費者はより個人でつながる時代になっていくと思います。コロナ禍で、人と人との、個人的なつながりの大切さを実感したからこそ、顔の見える生産者を応援したいという思いも強くなってくるでしょう。今回のプロジェクトで、横山さんのファンになった方がいるのなら、「また横山さんのトマトを食べたい」というニーズに対して、横山さんから直接配送できる仕組みや、そこから生まれる新たなコミュニティを盛り上げる施策など、新しい試みに広がる可能性があり、イノラボがデザインできる領域もまだまだあるだろうと思います。

 

テック活用とデザインの融合は、イノラボの強みです。私としては、「思いやりクリエイター」の肩書きで活動していますので、人と人のつながりに目を向け、その思いを汲み取るデザインで、世の中に貢献していきたいと考えています。真摯に野菜作りをしている生産者の小さなファンコミュニティから、地産地消が促進されていくように、誠実に生きている人に対して、より身近に応援し合える素地が広がっていけばいいなと思っています。