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WIRED ×イノラボ×TechShop 「イノヴェイション・サマースクール」を中高生向けに開催!豪華な講師陣を迎え、3日間で人工知能を用いたIoTデバイスを作り上げました
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イノラボは8月22日〜25日の3日間、WIREDとTechShop との3社合同で、中高生向けIoT/AIワークショップ「イノヴェイション・サマースクール」を開催しました。
「イノヴェイション・サマースクール」は、ハードウェアプロトタイプの電子工作から人工知能(機械学習)を用いたソフトウェアプログラムまでを、3日間という短い期間で修了する世界最高難易度のワークショップです。北海道や大阪など全国各地から、平均年齢15歳の学生ら16名が参加しました。
「イノヴェイション・サマースクール」開校の背景
近年、家計に占める教育関連支出においては受験合格に重きが置かれ「アート&サイエンスをたのしく学ぶ」といった知的体験コンテンツの優先順位が後退していると言われています。また、日常で触れるICT/IoTサービスはスマートフォンなどを通して提供されており、機構部分の仕様がブラックボックス化していることも「理科離れ」を引き起こしている一因だと考えられています。
主催3社は、将来の科学技術分野での研究開発や産業基盤を揺るがしかねないこうした若年層の「理科離れ」を深刻な問題と捉え、中高生に対して実際に手を動かすことによりリアリティを伴った理解へとつなげるべくIoTやAIを扱うカリキュラムにてサマースクールを企画、開講にいたりました。講師には、アート&サイエンスの最先端トピックの表現活動や、学術研究の第一線で活躍する方々をお招きしました。
「イノヴェイション・サマースクール」開校
今回のワークショップでは、腕時計型のIoTデバイスを手作りで完成させることを目標に、ハードウェア作成から機械学習をさせてプログラムを組むところまで、3日間という短い工程で集中的に取り組みます。
DAY1:きゅんくん、磯山先生による「電子工作入門講義」
DAY1は、ロボットをファッションに取り入れた「METCALF(メカフ)」の開発者であるロボティクスファッションクリエイターのきゅんくんが、青山学院大助教の磯山先生とともに電子工作を教えます。
午前中は「電子工作入門講義」。工作ツールの説明や製作設備の基礎、コーディングからネットワークについてまで、講義を行いました。
続いて実際の製作です、腕時計型の IoTデバイスのバンド部分となる革素材を各自の好みに応じて選び、レーザーカッターでカットする皮革加工からスタートしました。
次はIoTデバイスの基盤となるキットの製作です。講師がハンダ付けを教えていきます。参加者が始めてLチカ(LEDライトを点灯させること)に成功。参加者はみな楽しそうで、積極的に参加していました。
通常のワークショップでは、こうしたキットは既に完成されたものを使用することが多いのですが、今回は革素材の色選びから皮革加工までを自分たちの手で行い、電子工作以前の段階にも触れることで、プロダクトの製作工程をより楽しんでもらいました
DAY2:落合先生による「メディアの未来講義」
2日目はメディアアーティストであり、筑波大学助教の落合陽一先生による「メディアの未来講義」。物理学や哲学の基礎についてわかりやすく説明しました。
哲学の講義では「スワンプマン問題」に触れました。「どこでもドアをくぐった人はどこにいくのか?」というところに着目し、どこでもドアをくぐった人は、原子レベルで分解されるとします。別のドアから新たに原子を組み合わせてつくられる場合、これらは同一人物と言えるのか?という話に、参加者たちは興味津々のようすです。今回のワークショップで製作するIoTデバイスについても、未来視点で捉えることで、メディアとしての役割や存在意義について、講義の内容をふまえて参加者は各自、思いをめぐらせます。
午後の実践ワークショップでは、DAY 1 で組み立てたIoTプロトタイプを用いた電子工作を行います。
参加者たちは、憧れの落合陽一先生の講義が聴講や近い距離で会話を楽しんでいるようすです。
DAY3:石井先生、鈴木先生による「AIでできることと学習のさせかた」
DAY3 は、この2日間で組み立てた IoTプロトタイプにパターン学習を用いたAI を実装し、完成させるところまでを1日で一気にやりきります。
今日の講師は、筑波大学の石井晃(いしい あきら)先生と、同じく筑波大学の鈴木一平先生。2人とも落合陽一先生の研究室に所属している、AIのスペシャリストです。
午前中の座学では「機械学習とはなにか」「どのような仕組みで機械は自動的に情報を判断しているのか」を中心に講義が進められました。
まずは機械学習の仕組みについて。石井先生は「この画像を見るとヒトは落合陽一先生の写真だと認識できますが、コンピュータにはそれができません。そのため、人間が写真の情報を数値化するなど、特徴量をラベルとしてコンピュータにデータで読み込ませる必要があります。」と説明。
続けて「例えば RGB など。色彩や明度といったいくつかの情報を数値化し、特徴量としてインプットすることで、この辺は肌色が多いから顔だとコンピュータは認識するわけです」と、コンピュータがどうやって画像を認識しているかについて説明しました。
また、機械学習をする上で欠かせないのが「線形回帰分析」です。線形回帰分析とは、複数の変数における相関関係を直線モデルによって説明しようとする分析手法です。
画像内のバツ印は20歳から55歳までの平均年収を表したもので、それぞれのバツ印から最も誤差が少ない地点を結んだ線から、33歳時における平均年収を予測します。
石井先生は「これは単純な例ですが、実際に有用なデータとして使うための最適な直線を探すためには、何百万通りの計算式をする必要があります。この計算を人間がやると何十年もかかってしまうため、機械学習でコンピュータに計算してもらっています。こういったところで機械学習は利用されているんです」と説明しました。
機械学習には特徴量選択、つまりどの情報を数値化してインプットするかが重要です。上画像はスマートフォンの加速度センサーの動きをデータ化したものですが、ここでは加速度センサーから得た情報を元に、人間の動作の違いの特徴量を推定しているところです。
今回のワークショップでは加速度センサーを用いて動作を判別するので、このスマートフォンの事例と似た動きをして、そこからデータを蓄積し動作の予測をコンピュータにインプットします。
実践ワークショップの前にお昼休憩。参加者たちは講師陣と一緒にランチを食べ、近い距離で IoT や AI についての話をしていました。みんな笑顔で楽しそうですね。
いよいよ IoT プロトタイプを実際に動かします
そして、 IoTプロトタイプにAIを実装していきます。まずは加速度センサーを備えたプロトタイプを身につけて、パンチや腕を振るなどの動作をコンピュータに読み込ませます。
IoTプロトタイプの基盤にはArduino互換のESPr Developer(エスパーデベロッパー)を用いて、動作別に「この動きはパンチ」「この動きは手を右に回す」など、あたらかじめ設定されたソースコードを基にプログラムしました。参加者2人に対して1人の講師陣がサポートをしてくれるので、プログラミング初心者の参加者でも安心です。
参加者はひたすら自分の動作をIoTプロトタイプに学習させていきます。1動作につき最低20回の動作をインプットします。チームによっては、別の参加者と抽出したデータセットを共有し、より効率的に正確性をあげようと工夫するシーンも見られました。
ここで自分でインプットした通りにコンピュータが理解しているかをテストします。パンチの動作をした際にLEDで “P” と表示されるようにしているところ。参加者の1人に話しを聞くと「11%の確立でパンチがシェイクと誤って認識されてしまうんですよね。この誤差をどう縮めようか試行錯誤中です」と答えてくれました。
ひと通りワークショップが終わると、アドバンスドタイムが設けられました。参加者は、スマホを持ったときに “S” と表示させたり、ジャンプをすると ”J” と表示させたりといった独自の発想で IoTのプロトタイプ作っていきます。
3日間の「イノヴェイション・サマースクールを終えて」
3日間という短い期間ながら、参加者全員が皮革加工から機械学習までを自分の力でやりきることができました。最後の修了式で落合先生から「通常であれば大学3年生になってから取り組むレベルで、かつては大学院の修士課程にて研究されていた内容ですが、平均年齢15歳のみなさんはたった3日間でやり遂げました。ハードだったとは思いますが、こうやってウェアラブルデバイスのプロトタイプを作れるというのはすごく貴重な体験です。将来的にもこういった経験は生きてくるので、スクールが終わってからも継続していってほしい」という言葉が参加者に贈られました。
最後に参加者全員で記念撮影。参加者に「イノヴェイション・サマースクール」に参加した感想を尋ねると「別のプログラミングスクールにも参加しているが、実機を組み立てたり、人工知能の実装に関しては教えてくれない。独学するしか方法がないが、大学レベルの数学を理解する必要がありなかなか実現できなかった。今回は(それぞれの分野の)有名な講師が近い距離で、中学で習う数学のレベルでも理解できるように教えてくれたので、ためになった」と答えてくれました。
IoT や AI などのテクノロジーは年々注目度が上がっていますが、その技術や方法を中高生に教えられる講師は、日本だけでなく世界中で見ても数えるほど。それぞれの分野の第一線で活躍する、近い世代の講師陣に教えてもらえたことは、参加者にとって良い経験になったのではないでしょうか。
きっとこの参加者の中から、将来 IoT や AIといった最先端サイエンス分野における日本のテクノロジーを牽引していく人材が誕生することでしょう。
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