ロボットプラットフォーム研究開発とロボット利用価値の探究

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2023.07.31
岡田 敦

岡田敦
空間テクノロジスト

渋谷 謙吾

渋谷 謙吾
モノを動かすエンジニア

岡田 真由

岡田 真由
Biochemical Engineer

 

1.背景

ファミリーレストランにいけばロボットが配膳してくれる。 ビルのエントランスではロボットが警備している。こういった光景が日常でも当たり前になってきました。 
 
経済産業省の「第3回スマートビル将来ビジョン検討会」の資料では、ビルの中でロボットが案内をしてくれる、買い物カートロボットが自動でついてきてくれて手ぶらで買い物ができる、ドローンが外壁点検をしてくれるなど、さまざまなユースケースのイメージが言及されています。(※1)  
また、少子高齢化による労働力不足などの懸念からサービスロボット活用の期待が高まっており、オフィスビルなどの施設内で人とロボットが安全かつ快適に共存できるロボットフレンドリー(ロボフレ)な環境の構築に向けた調査研究が進められています。(※2) 
こうした動向から、ロボットによって人の生活が便利になったり、人間だけではできなかったことができるようになるなど、ロボットがわたしたちの生活に浸透していく世界になっていくと想像できます。  
  
(※1)https://www.ipa.go.jp/digital/architecture/Individual-link/ps6vr7000000s3ek-att/pj_report_smartbuilding_doc-appendix_202303_1.pdf 
(※2)http://www.jmf.or.jp/content/files/katudou/22rob02.pdf 
 
 

2.イノラボの取り組み

イノラボでは、人とロボットとともに暮らす未来を想像し、そのような世界の実現に向けた研究開発を行っています。  
近い将来、私たちの身の回りのモノが勝手に動いて人を助けてくれたり一緒に行動するような、映画のような世界になるかもしれません。例えばオフィスでロボットがお水やお茶、お菓子をタイミングがいい時に運んだり、次の予定や利用内容に合わせて、モノとモノの位置が変わって空間を使いやすくするなど、人々の活動を自律的にサポートする存在となる可能性があります。  
イノラボでは、身近なモノが動くことで得られる新しい体験を実装し、その効果を確認するアクションを進めています。さらに、人とロボットがより柔軟に連携できるように、AIを活用した呼び出しシステムの実装、最近開発が進んでいるビルOSとの連携実験、さらにIoTシステムとの連動による価値検証も行なっています。本稿ではこれらの実装や実験結果について記載していきます。 
  
  

2-1.身の周りのモノが動く価値の検証

イノラボが開発した「動く植栽」は、植物を搭載した鉢が空間を自在に動き回ります。 2020年2月グリーンディスプレイ社が主催した「CONNECT」において動く植栽を動態展示し、ロボットが人の導線をコントロールできるのか、景観を好ましいものにできるのか、またロボットにしか見えないマーカーで、ロボットを望ましい位置に移動させられるのか、検証を行いました。詳しくは次のリンクをご確認ください。(https://www.isid.co.jp/humanology-stories/story/2020connect.html) 
 

 
さらに、動く植栽の技術を応用して、「動く椅子」を開発しました。この椅子は、打ち合わせの目的やスケジュールに合わせて自動的に並びが変わり、使用後には自らを片付けることができます。このシステムによってユーザーは手間をかけずに会議を開催できます。同時に、同じ空間で複数のロボットが衝突せず、効率的に動く、群制御に取り組みました。
このような動く植物や椅子を利用することで、人の手間を省いたり、人々の行動を変える新たな可能性を確認できました。
 




動く家具を利用する様子

 
  

2-2.挙手でロボットを呼び出す:人の意図に合わせてロボットが動く

近い将来、ロボットに作業を依頼したり、物を持ってきてもらいたいというシーンが現れるでしょう。イノラボでは、特別なデバイスやスマートフォンなしでロボットを呼び出せるシステムを開発しました。このシステムでは、人が挙手すると環境に配置したカメラがそれを検知し、ロボットが来る仕組みになっています。
  
システム内のカメラは同じ部屋に複数配置されており、部屋にいる人の姿勢を検知しています。複数人の姿勢をリアルタイムに観測しており、挙手しているかどうか判断します。また、挙手した人が指差したところにロボットがくるような制御も実現しました。
これにより、声などの指示では伝えにくい「このあたりに来て」や「この辺りを掃除して」などの指示が可能になります。
今回、Pudu Robotics社のKettyBotという配膳ロボットを使用し、挙手した人へ水を届けるデモシステムを作りました。デモ動画では、ロボットが座っている人々へ順番に水やお茶を配っています。
https://www.pudurobotics.com/product/detail/kettybot
 

 

ジェスチャーによるロボットの呼び出しの様子

 
  
このシステムを使って、自動運転や自動宅配ロボットを手掛けるZMP社と一緒に、挙手で搬送ロボットを呼び出す実験も行いました。 実験ではZMP社のロボット制御プラットフォーム「ROBO-HI」とイノラボシステムを連携させてロボットを動作させました。
  
実験では、男性が挙手をするとZMP社の宅配ロボットであるDeliRoが飲食物を持ってきてくれます。その後、女性が挙手するとkettybotが消毒グッズを持ってきてくれます。 このデモを通じて、タブレットやスマホなどデバイスがなくてもロボットが人の指示に合わせて行動してくれることに価値があることを検証しました。人の意志を理解するためのセンサーや機器の設置にはコストがかかりますが、声を出す必要もなく挙手で気軽にロボットを呼ぶ方法は、将来あってもよい手段かもしれません。
  
またロボットを挙手で呼ぶことであたかもロボットに直接依頼している気持ちになり、実際にロボットがやってくると自分の思いを汲み取ってくれた!という感覚が生まれロボットに愛着が生まれる感覚が得られる発見がありました。このような仕組みが、人とロボットが良好な関係を築くためのきっかけになるかもしれません。
  
https://www.zmp.co.jp/robo-hi
https://www.zmp.co.jp/ja/products/lrb/deliro
 

 

ROBO-HIとISIDのジェスチャーAI認識システムとの連携の様子

 
 

2-3.ビルOSと連携し複数の市販ロボットを制御するロボットプラットフォームのプロトタイプ開発

最近、ロボットの価格が低下したり、ロボットのレンタルサービスが登場することで、ロボットが入手しやすくなりました。人とロボットが協働することで、人手が節約され、人件費の削減やサービス品質の向上が期待されています。
 
ロボットの活用方法として、エレベーターや自動ドアなどの建物設備とロボットを連携させ、お客様案内や清掃を効率的に行う実験が盛んに実施されています。これらの高度なビル管理・制御ソフトウェアは「ビルOS」と呼ばれ、各地でビルOSとロボットの連携実験が進められています。
 
ロボットの活用方法として、エレベーターや自動ドアなどの建物設備とロボットを連携させ、お客様案内や清掃を効率的に行う実験が盛んに実施されています。これらの高度なビル管理・制御ソフトウェアは「ビルOS」と呼ばれ、各地でビルOSとロボットの連携実験が進められています。
この動きを受けて、イノラボでは、ビルOSと複数のロボットを接続しロボットを動かすアクションにも挑戦しました。ビルOSが検出した情報やユーザからの指示に基づいてロボットを動かすプラットフォームを構築し、その有効性を検証しました。
 
今回の検証では、オフィスの会議室予約や空調制御を可能にするISIDのwecrewをビルOSと見立て、wecrewと連動するロボットプラットフォームを開発しました。https://www.isid.co.jp/solution/wecrew.html
 
この取り組みでは、wecrewのスマホアプリでQRコードを読み取り、ロボットが呼び出せる仕組みとし、ユーザが簡単にロボットを用途に応じて利用できるようにしました。実際に構築したシステムの動画が以下になります。
 



ロボットプラットフォーム x wecrewスマホアプリでロボットを制御する様子

 
本ロボットプラットフォームでは、複数のロボットから動かしたいロボットを選択し指定した位置に移動させることができます。 実証では先に紹介したkettybotに加え、株式会社KeiganのKeiganALIなどを利用して、連携したサービスを実現しています。これらのロボットがあらかじめ場所を登録したQRコードをスマートフォンで読み取りサービスを指定すると案内をお願いしたり、必要なものをロボットに持ってきてもらうことができます。この仕組みを応用すると、受付業務の簡略化など、よりお客様に即したサービスを提供することができます。
 
開発したロボットプラットフォームを利用してISIDに来訪いただいたお客様に対してロボットでサービスを行うアクションにも挑戦しています。 先日ISIDブライトに訪問いただいた三条市長さまにコーヒーやお土産をロボットでお渡ししました。その様子を三条市福祉課さまに撮影・ツイートいただきました。
(https://twitter.com/sanjo_fukusika/status/1659465864826212352?s=20
 

市長にコーヒーやお土産を運ぶロボットの様子

 

2-4.イノラボロボットプラットフォームとIoTセンサとの連携

今回開発したロボットプラットフォームは他のソリューションと接続することも可能です。
2023年4月にパナソニックEWネットワークス様の「POSITUS」とイノラボのロボットプラットフォームを連携させました。 POSITUSは人やモノの位置を見える化するソリューションで、専用のビーコンやiPhoneで人の位置(座標・エリア)の特定が可能です。人やモノを探す時間を削減でき、また会議室の利用状況などを把握することができます。
 
POSITUS:https://panasonic.co.jp/ew/pewnw/welfeeldo/work_consultation/positus.html
 

  
イノラボで実装したデモでは、POSITUSとロボットプラットフォームを連携し、 POSITUSで取得したユーザの位置座標をもとに、ロボットをユーザの位置に向かわせることを可能にしました。
 
このようにPOSITUSのようなユーザの居場所を検知するシステムと連携することによって、自分がいる場所を伝えなくても何かをトリガーに呼ぶだけで勝手に近くにやってきてくれる、ということも実現可能になります。
 
オフィスのフリーアドレス化が進む昨今において、自分の場所を説明しなくても環境が理解してくれている状況が実現されます。逐次ユーザの位置を確認し更新すれば、ユーザが移動してもついてきてくれるようなことも可能になります。例えばスーパーやホームセンターでロボットのカートがついてきてくれる、ホテルで旅行の荷物を運んでくれるなど、より柔軟なサービスが提供可能になります。
 
 

3.今後の展望

本稿ではイノラボのロボットに関する研究開発を紹介しました。
 
ご紹介した検証を通じて、ロボットをどのように呼ぶか・どのような仕組みを使って移動させるか、どのようなシステムが望ましいかの検討を進めてきました。 今後はロボフレな未来に向けて、具体的にどのような役割をロボットにお願いして、人とロボットが効果的に協力し、これまでにできなかったことを実現していくか考えていく必要があります。
一方で建物やロボットを管理する側からすると、ビルOSなどを通じていつ誰にどのロボットが何のサービスをするのか、またロボットがどこにいて稼働状況がどうなっているか、ロボットが故障など異常な状態にないかなど、ロボットの利用状況の管理やサービス状況の把握が課題となります。
 
2023年4月に独立行政法人IPAが発表したスマートビルガイドラインでは、ロボットはビルや人と共に一つのデジタルエンティティとみなされ、建物のデジタルツイン内で可視化されます(https://www.ipa.go.jp/digital/architecture/project/smartbuilding/guideline.html)。
 
建物のデジタルツインに情報を集約することで、ロボットに周囲の状況や利用者の情報(年齢、性別、コンディションなど)や建物内設備の状態、活動状況などをスムーズに送信できるため、利用者ニーズや状況に適したロボットサービスを提供できるようになると考えられます。

建物デジタルツインの例のイメージ
スマートビルシステムアーキテクチャガイドラインより)

 
ISIDは、ロボットとともに建物デジタルツインの構築や、データ分析環境整備にも取り組んでいる中で、このようなガイドラインに沿いながら、多様なビルOSに接続できる柔軟なプラットフォームを構築することが重要だと捉えています。
 
日本では高齢化が進み労働力不足が深刻化する中で、働き方改革として人の作業負荷の削減につながるロボット活用がこれからも進むと考えられます。ロボットの活用で働き方の効率化や人の余暇時間を増やすだけでなく、ロボットとうまく協調することで人だけではできなかった価値を生み出すことができると期待されています。
 
ロボットやIoT、AIなどの技術がさらに進み組み合わさった先に、どのようなロボットサービスが根付くのか。建物の環境がより人の様子を詳細に把握でき人の思いを汲み取れるようになった時に、ロボットや環境と人がどのような協力関係となるべきなのか。
 
イノラボは、さらなるユースケースの実証実験とロボットサービスを進化させるITシステムの開発を両輪として進め、人とロボットのあるべき関係の探究を進めます。