POCレポート:Laboratory Automationによる研究開発プロセスの改善

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2023.05.17

1. 背景

近年、科学研究分野において、研究プロセスのデジタルトランスフォーメーション
(DX)や実験室⾃動化(Laboratory Automation)のトレンドが急速に拡⼤しています。

研究DXや実験室⾃動化はエラーの低減、再現性の向上、スループットの向上に役⽴
ち、研究開発プロセスを効率化する重要な技術として注⽬されています。また、内
閣府の「科学技術・イノベーション基本計画」においても、研究DXの推進に向けた
取り組みが積極的に進められています(※1)。

しかし、研究DXや⾃動化のためのシステム導⼊には以下のような課題があります。

・研究DXを⾏いたいが、何からやればいいのかわからない
・⾃動化システム導⼊のための初期費⽤が⾼額
・⼤規模な⾃動化システムを導⼊しても微調整ができず、様々な研究プロセスに
活⽤することが難しい

そこで、ゲノム編集技術を活⽤し社会課題解決に取り組むスタートアップ企業、プ
ラチナバイオ株式会社と連携し、研究者のニーズ調査や、⼿軽にカスタマイズ可能
な⾃動化システムを構築することにより、研究開発プロセスのあるべき姿を分析
し、その実現に向けた技術の検証を⾏いました。

■プラチナバイオ(PtB)について
PtBは、広島⼤学ゲノム編集イノベーションセンター・⼭本卓教授らの最先端ゲノ
ム編集技術を核にして設⽴されたスタートアップ企業です。独⾃のバイオDX技術と
ゲノム編集技術を梃に、①⾮モデル⽣物を含むあらゆる⽣物のゲノム情報の解読、
②⽬的の⽣物機能に関わる遺伝⼦を特定、③ゲノム編集による機能向上の3点を⼀気
通貫で⾏い、社会課題を解決し得る⽣物機能をデザインするプラットフォーマーと
して、様々な事業パートナーとの共創事業を推進しています。
代表者:代表取締役 CEO 奥原 啓輔
所在地:広島県東広島市鏡⼭三丁⽬10番23号
URL:https://www.pt-bio.com/

■出典
※1)内閣府Webページ 研究DX
https://www8.cao.go.jp/cstp/kenkyudx.html

2. 取り組みの概要

今回の取り組みでは、「研究DXをどのように進めたらいいか分からない」「費⽤対
効果の⽅いプロセス⾃動化をしたい」という課題に対し業務分析を⾏い、ニーズマップから研究プロセスのあるべき姿を明確化しました。そして、その実現に向けた⽀援として⾃動化システムの構築を⾏いました。


研究DXニーズマップの作成

研究者のニーズを特定し、研究DXソリューションが⽬指すべき⽅向性を決定するた
めのニーズマップを作成しました。
ニーズマップは、バイオ系研究者やマネジメント担当者と共に開催したアイディエ
ーションワークショップやアンケート調査をもとに、研究プロセスに対する潜在的
なニーズを分析することにより作成しました。

研究者とマネジメント担当者のニーズを整理すると、⼤きく4つの種類のニーズがあ
ることがわかります。

・研究開発の仮説検証サイクル強化
・研究開発⽀援のマネジメントの強化
・組織⼒を強化する個のアプローチの強化(研究者から組織へ)
・この研究開発を強化する組織的アプローチの強化(組織から研究者へ)



作成されたニーズマップから、研究開発プロセスのあるべき姿には3つの重要な要素
があると考えています。

・Speed:研究開発サイクルをスピーディに完遂する
・Support:マネジメントによる研究開発の⽬標達成を⽀援
・Synergy:個々の知⾒・スキルを組織に還元



これらのあるべき姿と現状を⽐較することで、様々な研究開発プロセスの現場における課題を発⾒できると考えています。

⾃動化システムの構築

ニーズマップにおける「研究開発の仮説検証サイクル強化」の取り組みとして、⾃
動化システムを構築しました。
⾃動化の対象としたプロセスは、バイオ実験において頻繁に⾏われるDNAサンプル
電気泳動後のゲル切り出し作業です。この作業では発がん性の試薬を扱うため、⾃
動化することで作業効率化だけでなく、発がん性物質への曝露リスクが⼤幅に低減
され、実験の安全性が向上します。さらに、ロボットのみで作業を⾏うことで⼈間
由来の不純物の混⼊リスクも低減されます。

ゲル切り出し作業を⾃動化するロボットにはDobot Magicianを採⽤しました。
Dobot Magicianは、コンパクトで低価格な4軸ロボットアームで、STEAM教育から
産業⽤途まで幅広く利⽤されています。操作は付属ソフトウェアで簡単に⾏うこと
もでき、別システムと連携させるなどカスタマイズしたい場合にはプログラミング
で複雑な処理を⾏うこともできます。

■Dobot Magician

以下のようにロボットを構成し、プロトタイプを作成しました。

■ロボットの構成図



■エンドエフェクタの構成図



■ロボット実際の動画


■ロボット制御システム(イメージ)

研究者へのヒアリングと、アジャイル的なプロトタイプ開発により、短期間で安価
なロボットを利⽤した実験作業の⾃動化をすることができました。

しかし、実際の研究プロセスに導⼊していくことを⾒据えると以下のような課題も
明らかになりました。

・実験がうまくいっているかの確認や緊急停⽌システムが必要
・実験に使う材料によってロボット操作の細かいパラメーター調整が必要

これらの課題は、より⾼性能なロボットを採⽤したり、AIや画像処理技術を利⽤す
るなど、プロセスに応じて費⽤対効果の⾼い選択をしていくことが重要になりま
す。

3. 今後の展望

ニーズマップをもとに研究開発プロセスの「あるべき姿」から現状の課題を発⾒し
ていくプロセスは、様々な研究開発現場で有効な⼿法だと考えています。
今回の知⾒を活かし、お客様の研究開発プロセスを診断し現状の可視化と課題発⾒
を⾏うコンサルティングサービス「ラボ診断ソリューション」を提供いたします。

また、研究開発プロセスの診断の中で顕在化した課題へのサポートとして、研究開
発サイクルのスピードを向上するためのソリューションである⾃動化システムや、
個々のスキル・知⾒の形式知化するためのソリューションであるLIMS (Laboratory
Information Management System、実験室情報管理システム)の導⼊⽀援を⾏いま
す。

研究DXに関するお問い合わせは、下記フォームからお気軽にご連
絡ください。