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VRを利用した幻肢痛の遠隔疼痛緩和の試み、幻肢痛VR遠隔セラピーシステム

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2022.08.29

VRを利用した幻肢痛の遠隔疼痛緩和の試み



幻肢痛は、怪我や病気など四肢を切断もしくは神経を損傷した人が痛みを感じる症状です。当事者は手や足の切断、感覚を失ったにもかかわらず今まで通り手足が存在(幻肢)するように感じられ、その幻肢が激しく痛む感覚を覚えます。幻肢痛の治療には鏡療法と呼ばれる療法が一般的です。鏡療法は人によって切断部位が異なり幻肢を感じる部位も違うため限界がありました。幻肢痛は何時痛みが襲ってくるかわからない症状であり、副作用を感じつつもやむをえず薬で対処しようとする当事者も多く、根本的に痛みを抑える仕組みが求められていました。

KIDS社の猪俣氏はこの幻肢痛の課題に対して、VRを利用した疼痛緩和システムの開発を進めていました。




健側の肩・肘・手首・5本の指をセンシングしリアルタイムで計測して、鏡では不可能だった患者が感じる幻肢の位置に失った四肢を出力するシステムです。猪俣氏らのVRシステムを用いたセラピーは多くの患者の痛みを緩和させる効果があり、継続的に利用することで痛みが低減させることが報告されています。猪俣氏の尽力により、VRによるリハビリが有効な手段として世に広まり始めていますが、VRセラピー当事者は全国におり、セラピスト不足の課題があります。また、当事者側にも外出が容易でないケースやコロナ禍における対人接触の回避を理由に、セラピーやリハビリを受けに外出ができない状況がありました。この課題に対し、イノラボは東京大学暦本研究室、KIDS社と共同で、セラピストと当事者がVR空間で対話できる「幻肢痛VR遠隔セラピーシステム」を開発しました。




システムはVR体験者の動きを外付けのカメラで認識し、関節の情報をVR空間にリアルタイムに反映するものです。VR空間には2名分のトラッキング情報を同一の仮想空間に出力可能で、セラピストと遠隔地にいる当事者は、VR空間の自分や相手の動きを見ながら、あたかも対面しているかの感覚が味わえます。身ぶりや手ぶり、ジェスチャー、音声を使った相手が目の前にいるかのようなコミュニケーションが実現され、このシステムによりセラピストがVR空間の視界に現れ、直接身ぶり手ぶりで指導が受けられるよう世界が実現しました。セラピストはVR空間で当事者に「こうやって」など、直感的な指導が実現され、指導する側もされる側も負担の軽減も実現しました。また何よりセラピーを受けるための移動を省くことができ、2019年に実施された実証実験では、東京のKIDS社のオフィスと奈良の畿央大学間の遠隔セラピーで、既存のVRセラピーに劣らない疼痛効果を確認しています。




システムをもっと手軽に利用できるように

VR遠隔セラピーシステムをもっと手軽に利用できるように、PCやセンサを省略したヘッドマウントディスプレイ単体で動作するスタンドアロンシステムに改良しました。


ヘッドマウントディスプレイのハンドトラッキング機能を利用し、頭と手、手の指先の動きを利用し失った腕を再現する機能を備えています。ネットワークにさえつながればどこでも遠隔セラピーを体験でき、2021年秋に東京や関西、中国地方に住む7名の当事者の方にこのシステムを使ってもらい検証を進めたところ、ほとんどが痛みが緩和される効果が確認されました。さらに継続的に利用することで、日常感じる痛みから解放されるケースが報告されています。





遠隔コミュニケーション技術を活用して、社会課題の解決に

イノラボでは遠隔での体験の可能性に着目し、コロナ禍以前より研究開発を進めていました。その中の一つとして、遠隔コミュニケーション技術がありましたが、幻肢痛で開発したVR技術を活用し、社会課題の解決を試みています。イノラボでは研究を進めている技術を社会課題に適用し、課題の解決に取り組んで参ります。


本研究は畿央大学大学院健康科学研究科 准教授 大住倫弘氏と共同で、第21回日本VR医学会学術大会にて論文を発表いたしました。

公式ウェブサイト



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