AIが判定したオリンピックの映え写真は?
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コロナ禍で開催された東京オリンピック。イノラボは観光型MaaS向けに開発したSNS映え画像判定AIで、オリンピック選手たちが投稿したSNS画像から素敵な写真を抽出できるか検証してみました。

藤原 洋介
Human & Information AIテクノロジスト
本来の形を失った中でSNSから発信される選手のメッセージ
現在、新型コロナの感染拡大によって人々の生活は大きな制限を受けています。海外旅行はおろか国内旅行を自粛し、スポーツ大会や花火大会、フェスなどのイベントは縮小または中止という状況が長期間続いています。
私たちは新型コロナが流行する直前の2019年末に、訪日外国人観光客(インバウンド)向け観光型MaaSの実証実験を奈良で行いました。訪日観光客を対象に、旅中での行動変容を促すためのAIとして、SNS映え画像判定AIを開発したのです。しかし、新型コロナが流行してしまったために、当初想定していた需要は2020年以降、現在まで消失している状況です。
しかし、こうしたコロナ渦で観光地やイベント主催者が何もできない状況かというと、決してそうでもないことが垣間みられます。例えば、観光客が来なくとも、観光地はSNSを通じて観光地のコロナ対策や自然の姿などを発信したりできます。イベント主催者は観客がいないスタジアムでのスポーツの様子や、オンラインフェスや、過去の花火大会の様子を配信したりすることで、自宅にいる人々とつながることができているのではないかと思います。こうした活動は元の生活が戻ってきたときに大きな意味をなしてくれるのではないでしょうか。
この夏開催された大型イベントであるオリンピックも本来の形とは異なり、無観客という形式で開催されました。ほとんどの国民はオリンピックの様子を直接自分の目で見て感じることはできず、テレビやインターネットから配信される映像がその臨場感を共有できるメディアでした。また、そうした映像だけでなく、”選手自身により配信されたSNSメディア”を通じて、その様子を感じることもできました。選手のSNSには、競技場や選手村などの写真があり、現地の様子や雰囲気を擬似的に体感できました。
私たちは、選手の撮影した画像の一部が写真映えしていると話題になっていることに着目しました。日本人の撮影した東京の観光地や都心の夜景など、写真映えする投稿は数多くありますが、海外のトップアスリートが投稿する写真一味違います。鍛えられた肉体で綺麗なポーズを決めたアスリートならではの写真や「これ、本当に日本?東京?」と思わせるような写真が見られました。
アスリートの映え写真をAIと人がそれぞれ判定
そこで話題となっているオリンピック選手の画像に対して、「SNS映えする写真を判定するAIエンジン」がどのような判定結果を出すかをテストしてみました。このAIエンジンは、ISIDが2019年に奈良の観光向けに開発したもので、ある写真がどれくらい映えているかを判定するものです。AIの性能は2019年からバージョンアップしています。
以下に、オリンピック選手のSNS写真を数枚とりあげ、SNS映えする写真を判定するAIエンジンで判定してみた結果と、人間が見た印象について比較したものを示します。写真は参考のため、オリンピック選手のSNS写真に対して、イノラボメンバーが撮影した写真も掲載しました。人間の写真に対する印象は個人差がありますが、今回は簡易な確認のため、弊社関係者でInstagramのユーザーや写真愛好者の意見、SNS画像のコメント等を参考に、人間による印象としました。
#1
AIによる映え度判定:映え度がかなり高い
人間による印象:
・天気が良く明るい、色合いが鮮やか
・地面と水平に撮られている、選手と消失点を合わせるなど構図がいい
・髪を上手くなびかせてポーズがいい
#2
AIによる映え度判定:映え度がかなり高い
人間による印象:
・色のコントラストと彩度がいい
・トップアスリートならではの肉体美を表現するポーズと奥行きのある抜け感がいい
・カメラの絞り又は加工で背景をぼかすことで、選手によく焦点が当たっている
#3
AIによる映え度判定:映え度がかなり高い
人間による印象:
・東京の夜景からは落ち着いていた綺麗さを感じる
・フレアが映っている
・夜にコンクリートの上での記念写真を撮るということ自体、あまり日本人はやらなさそうだが、ポーズやアングルを工夫することで、ステレオタイプ的な記念写真とは違う印象を受ける
#4
AIによる映え度判定:映え度が高い
人間による印象:
・選手の表情や汗がリアル
・色彩が青に統一されており綺麗
・素早いスポーツの動きの中で、選手とボールを中央に一緒に入れるなどの構図の瞬間を見逃さず、ピントも選手とボールに上手く合っている
以上がSNS上にアップされたオリンピック選手の写真で、AIが映えていると判断した写真でした。上記と比較するために、イノラボメンバーが撮影した写真についてもAIと人間による印象について記載しました。
#5
「イノラボメンバーが撮影した羽田空港の滑走路」
AIによる映え度判定:映え度がかなり低い
人間による印象:
・天気が悪く、色味も鮮やかさもなく、暗い印象
・構図の点でも映えている印象を受けにくい
・ぱっと見て何が写っている写真かわかりにくい
・ガラスの反射や水滴が映り込んでいる
#6
「イノラボメンバーが撮影したお台場の聖火」
AIによる映え度判定:映え度がかなり低い
人間による印象:
・空や聖火の炎の素材はよいが、写したいものが小さく、余計なものや空間が映り込んでいる印象
・構図や色味次第では映え度が高い写真になった
#7
「イノラボメンバーが撮影したお台場の自由の女神と五輪マーク」
AIによる映え度判定:映え度がかなり低い
人間による印象:
・空の色は良いが、ガラスの反射が邪魔してしまっている。
・五輪マークのオブジェや自由の女神や橋などの素材はよいが、手前の道路も含めると情報量が多い
・ガラスがない状態で撮り、ズームもしくはトリミングすれば、もっと映え度が高い写真になった
AIでも人間でも、映えてる・映えてない判断に大きな違いは見られなかった
オリンピック選手のSNS写真とイノラボメンバーの写真について比較すると、AIによる映え度判定の結果でも、人間による印象でも明らかな映え度の違いが見られました。
オリンピック選手のSNS写真:
・被写体がうまくポーズをとっている
・色合いがある
・構図に工夫がみられる
今回収集したコメントから、写真の中の上記の特徴について人間は映えている印象を受けると推察します。少なくとも、そのような写真についてはAIも映えていると評価するようです。
イノラボメンバーの写真:
・構図やカメラの設定などが調整されていない写真
・天気の悪く色合いのない写真
・一目見て被写体がよくわからない構図
・ノイズ的な要素を含んだ写真
写真の中の上記の特徴について人間は映えていない印象を受けると推察します。たとえ、綺麗な空や夜景など被写体の素材がよくても、構図やカメラの設定などが調整されず、撮影が雑に行われていれば、映えていない印象をうけるようです。AIによる映え度判定の結果を見ても、おおよそ映えていないと評価するようです。
もちろん人間による印象については個々人のバラツキなどはありえるはずで、人間による印象に関する情報を大規模に収集してAIによる映え度判定の結果を詳細に吟味すれば、ミスマッチしているケースもありえると思います。しかし、大きな傾向として、人間による印象として映えていると感じる写真はAIも映えていると評価でき、人間による印象として映えていないと感じる写真はAIも映えていないと評価できていると考えてもよいのではないでしょうか。
情報(画像)の需要と供給の紐付けをAIで効率化し、離れていても快適につながる世界へ
当初、私たちは日本の観光向けの用途でこのAIエンジンの活用を想定しており、フェスやスポーツ大会などのイベントでの活用は想定していませんでした。自然や夜景などの風景写真などを通してAIをチューニングする際に、海外のリゾートや街並みの画像を使っていたことも、今回、オリンピック選手のSNS映え写真をAIで評価できた一因として考えられ、両者とも海外の人が旅先で撮影する映え写真という意味で共通する部分があり、ある程度画像として近い特性を持っていると考えています。
現在、国内外の旅行は自粛が促され、スポーツ大会や花火大会、フェスなどのイベントは中止や縮小が続いています。そのような状況で私たちは、今回の比較結果を参考に、観光だけでなく様々なイベントも対象として、SNSでの画像を使った情報配信をAIで効率化していきたいと考えています。
たとえば、中止になったイベントでも、過去の写真の中から人々が映えていると感じる写真を配信することで、そのイベントの雰囲気を疑似的に思い出すことができるのではないでしょうか?既存のサービスでも配信者の情報(画像)をその情報に対してニーズのあるユーザーに、レコメンド機能等を通じて供給するなどの、「情報の需要と供給を紐付けを促す仕組み」は昨今増えてきています。私たちは画像のAIで品質判定を直接行うことで、従来のサービスよりも品質向上させ、紐付けを効率化していきたいと考えています。こうした活動により、観光地やイベントとステイホーム生活を続ける人々との結びつきに貢献できることが私たちの願いです。
関連ページ:映え判定AI付きハッシュタグキャンペーン
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