スポーツ/ヘルスケア

健康寿命とスポーツ底上げに寄与する「AIパーソナルトレーニングシステム“YUA”」

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2020.05.22


増本裕介
AI教育サービスアーキテクト



植松侑子
プロジェクトマネージャー

人生100年時代となった今、健康寿命の伸長について検討がされており、その中のひとつとして、正しい運動やトレーニングを簡単に実現するというニーズが高まっています。実際に正しい運動やトレーニングを行うためには、自身の体の状態を分析し、課題を把握した上で正しい運動を行うことが重要ですが、専門知識のないユーザーが自身で対応するのは難しいものです。そこでイノラボでは、トレーナー等の有識者がいない環境でも、自身の体の状態や正しいトレーニング方法を把握できる「AI パーソナルトレーニングシステム“YUA”」を研究開発しました。

また、健康寿命の伸長とスポーツレベルの底上げを目指し、実証実験によるプロトタイプの評価・検証も実施しました。具体的なプロジェクト内容と成果、今後の展開について、プロジェクトリーダーを務めた植松侑子とプロジェクトの技術責任者である増本裕介が語ります。

健康寿命の伸長と、スポーツレベル向上に寄与したい

日本では、年々「平均寿命」が伸び続ける一方で、健康に生きられる「健康寿命」は平均寿命に比べると9〜12年短いと言われています。健康でいられる時間を長くするためには、正しい運動やトレーニングを継続することが欠かせません。

では、正しい運動やトレーニングとは何か。要素を分解すると、至極当然のことですが「自分の体の状態を分析」して「課題を把握」し、その課題を解決するための「運動方法を把握」した上で、「正しい運動やトレーニングを実施」。そして、その結果どうなったのか「体の状態を分析」する一連の流れを繰り返すということです。

しかし、運動やトレーニングに対する正しい知識を持たない人が、自分一人で体の状態や課題を把握して正しい運動することは難しいでしょう。

そこでイノラボは、有識者やトレーナーがいない環境でも正しいトレーニングができる「AIパーソナルトレーニングシステム“YUA”」を開発し、実証実験を行いました。


(図:ユーザー向けタブレット画面)


(図:AIパーソナルトレーニングシステム“YUA”設備構成)

必要な設備は、Webカメラとユーザー操作用のタブレット、そして解析用PCのみです。ユーザーの体の状態を分析するにあたりカーネギーメロン大学が提供する、画像や動画から人の骨格情報を検出する姿勢推定技術「OpenPose」を活用しました。ただし、OpenPoseは骨格情報を取得する技術のため、独自に見たい関節点等の角度計算や移動距離計算のロジッ設計並びに開発が必要で、ここがイノラボの腕の見せどころでした。

今回の開発は、フィットネスクラブを運営する企業と協業し、フィットネスクラブで提供されているパーソナルトレーニングをトレースするかたちで進めました。

開発は、大きく以下6つのステップで行っています。

ステップ1:どのような動作を元に体の状態を分析するかの整理。プロのトレーナーの方に実際のパーソナルトレーニングの流れを教えて頂きつつ知見を借りて実施。
ステップ2:次に、整理した動作の“どのポイント”をトレーナーは見ているのか、たとえば「スクワットをしているときは、横から膝の角度を見ている」といった、動作別の解析ポイントを整理。
ステップ3:1、2で整理した解析動作、解析ポイントをOpenPoseで取得できるのかの技術検証の実施。
ステップ4:評価ロジックの整理・検討。たとえば「膝の角度が何度から何度の場合は評価1」といった具合。
ステップ5:ユーザー向け操作画面やUXの検討。
ステップ6:それらを踏襲した内容での開発。

トレーナーの脳内にあった属人的なユーザー分析ロジックやノウハウを、整理しシステム化するのは困難でしたが、こうして「AIパーソナルトレーニングシステム “YUA”」は出来上がり、フィットネスクラブの会員や従業員の方に協力してもらって、トレーナーや有識者がいない環境でも自分の体の状態や正しい運動方法を把握できるのかを検証するに至りました。

パーソナルトレーニングの一連の流れを踏襲

「AIパーソナルトレーニングシステム“YUA”」 は、実際のパーソナルトレーニングでトレーナーが行う一連の流れを踏襲しています。

ユーザーはログインすると、体の不調や、トレーニングによってどんな効果を期待したいかなど、YUAによるカウンセリングを受けた後、カメラの前でYUAから指示された4つの動作を行います。

すると、YUAがOpenPoseとイノラボが独自開発した解析ロジックを使って体の動きを分析し、課題を見つけ、課題解決のために必要なトレーニング方法を提案します。解析結果は、iPadはもちろん、ユーザーのスマートフォンでも閲覧可能な設計にしました。

(図:ユーザー向けスマートフォン画面)

この実証実験で重視したのが、トレーナーのサポート無しに、ユーザーが本当に1人で利用可能なシステムになっているか、そして、プロのトレーナーの診断結果と差異がないかという点です。

結果はプロのトレーナーからも合格をもらえる精度で、有識者がいない環境でもユーザーが1人で利用可能なシステムの開発を実現することができました。ただし、プロスポーツの世界では、個人の特性やクセ等も加味しつつ複合的な情報を元に精緻な診断をすることが求められ、こういったニーズにはまだまだ足りていない状況です。
一方、健康のために運動したい人やアマチュアスポーツ、部活生などの支援には大いに役立つのではないかと考えております。

また、実際に利用したユーザーからは、「気軽に使えていい」「継続して使いたい」というポジティブなフィードバックをたくさんもらえたのは、大きな手応えになりました。


(図:実証実験アンケート結果)

フィットネスクラブ側としても、課題だったパーソナルトレーニングの加入率と継続率の改善につながる可能性を見出せました。1対1で行うパーソナルトレーニングにいきなり加入するのは心理的ハードルがあっても、個室にYUAのようなシステムを置いてユーザーが一人で正しいトレーニング方法を把握できるようになれば、フィットネスクラブを継続するモチベーションにもつながりますし、ゆくゆくはパーソナルトレーニングの加入にもつながるかもしれません。

また、新人トレーナーがシステムを活用すれば、ベテラントレーナーとの差を小さくできる可能性もあります。システムには体の不調箇所がどう変化したのかを可視化できる機能がついているため、新人トレーナーの支援はもちろん、ユーザーも変化を実感してトレーニングを継続するきっかけになるのではないかと思っています。

誰もがいつでも簡単に正しい運動ができる世の中へ

今回の「AIパーソナルトレーニングシステム“YUA”」のビジネス展開は、これからが検討フェーズとなりますが、トレーナーが行なっている一連の流れをシステムのみで完結できるサービスはまだ世の中にないため、健康寿命に寄与するためにも早く世に出したいと思っています。

たとえば、セルフで証明写真が撮れる証明写真機のように、「AIパーソナルトレーニングシステム“YUA”」も街中に設置されるようになり、誰もが気軽に自分に合った正しいトレーニング方法を診断できるようになると、運動やスポーツへのハードルがぐっと下がると思います。

また、野球やバスケットボールなどのスポーツに特化したシステムを作れたら、そのスポーツに必要な筋肉をつけるためのトレーニング方法を把握できるようになります。特に小中学校の部活動は、競技の経験がほとんどない先生でも顧問になるケースが少なくないため、学校にシステムを設置できれば、正しい体づくりができるようなり、日本のスポーツレベルの底上げにつながるかもしれません。

加えて、今回の「有識者がいない環境でもトレーニングができる」システムは、トレーニング以外にも展開できると考えています。AI フィットネスや他の領域への横展開、Withコロナでソーシャルディスタンスを保つ必要がある領域などへの活用も、企画検討していきたいと思います。