<東大×イノラボ>学生のアイデアを起点にした社会実験に挑戦!

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2021.11.08

イノラボは、東京大学大学院新領域創成科学研究科(所在地:千葉県柏市、以下東京大学)の「環境デザイン統合教育プログラム」(以下、IEDP)と、環境デザイン分野における課題解決に向けた学生提案を、先端技術を活用して社会実装し、その成果やプロセスを体系化する「社会実験構想学」の共同研究を行いました。イノラボからは渋谷・岡田・藤木が活動に参加しました。
 

藤木 隆司

藤木 隆司
Vision Tech Lead

東大IEDPとの共同研究は新しいオープンイノベーションスタイルの探究

イノラボでは、これまで先端技術の社会実装するため、さまざまな企業や教育機関と協働し、オープンイノベーションに取り組んでいます。オープンイノベーションは、企業が抱える課題に対して外部の技術やアイデアなどの資源を活用して解決に取り組んでいくアプローチが一般的でした。
 
しかし最近は、解決すべき課題が”企業固有のテーマ”から、SDGsのような社会全般の共通課題”に変わってきています。また進め方をみても、産官学民といった多様な連携をしたり、顧客や市民に参加してもらったり、関係者を巻き込んでいくことが重要になってきています。
 

イノラボが今回取り組んだ東京大学との共同研究は、「環境デザイン統合教育プログラム」という学生さんが受ける授業に、イノラボメンバーが公開討論や講義といった形で参加して先端テクノロジーの紹介や企画の立て方についてインプット。授業を通じて生まれた学生のアイデアから、社会実験を企画していく取り組みでした。Z世代と呼ばれる学生のアイデアを起点とすることで若い世代の価値観を柔軟に取り込み、大学を拠点とした近隣エリアの住民の巻き込みを狙う、新しいオープンイノベーションの探求の挑戦でもありました。

 

環境デザインとは何か?

環境デザインとは、私たちの身の回りに存在するモノや私たちを取り囲む建物や街並みといった環境を対象としたデザインすること、また、その環境に配慮したデザインをすることです。さらにIEDPであつかう環境デザインは、「形を創り出す」行為だけでなく諸課題の解決に向けた思考・概念を様々な媒体で表現する行為も対象としています。
 

このように幅広い領域をカバーする環境デザインは、我々が取り扱うデジタル技術に関して切っても切り離せないものになってきています。例えば、ゴミの蓄積情報を把握して最適な回収タイミングを判断できるIoTゴミ箱や店舗での店舗で無人店舗を実現するAI技術などテクノロジーは社会システムの一部と取り込まれ、さらにデジタルツインと呼ばれる現実空間とサイバー空間の融合が提唱されています。
 
そこで重要になってくるのは、飛躍的に進化したテクノロジーを使うことを第一目的にせず、豊かな暮らしを実現するためにちょうどよいテクノロジーを選択していく、”コンヴィヴィアル・テクノロジー”という考え方です。その意味でも先端テクノロジーを私たちの生活に溶け込ませていく考え方として、環境デザインの知見がますます重要になってきています。
 

学生のアイデアから生まれた企画:棚が紡ぐ、よそとうち

IEDPは通称デザインスタジオと呼ばれ、建築環境、建築構造、都市環境、自然環境、情報環境、地域環境、緑地環境、流域環境の8つのスタジオで構成されており、専門性の異なる教員がそれぞれのスタジオを運営されています。
 
2019年度の都市環境デザインスタジオでは、柏の葉地域の国道16号北地区を対象に、「郊外での新しいくらし方を考える」が課題となりました。そこで、街に変化をもたらす「短期滞在者」に着目し、短期滞在者間や地域住民との交流を生む仕掛けを埋め込んだ新しい住宅地をアイデアが学生さんから生まれました。
 

よそとうちの詳細はコチラ
 

交流を誘発する仕掛けとして「棚」に注目し、住宅内の壁面や通りに面した大窓に設置された棚に、そこに住む人の持ち物を展示することで、ここにはこんな人が住んでいるんだ」とお互いへの関心を持ちやすくし、「これはなんだろう、聞いてみようかな?」といったさりげないコミュニケーションを生むことを狙っています。「棚」から始まるさりげない交流の可能性や空間的な拡張性を評価し、共同研究で実験化に向けた検討を進めることになりました。

 

みんなの願いを集めて育てる柏の葉 wish tree

当時、コロナが流行し、外出や移動の自粛が要請されていました。我々の活動を難しくさせる一方、コロナ禍における参加型まちづくり手法の模索が始まったばかりだったことから、「非接触の交流手段」等のコアになるキーワードに、「アナログとデジタルの融合」「押し付けがましくないコミュニケーション」「まちづくりのサイレントマジョリティの参加」を実現するため発案者の学生さんともに検討を進めていきました。
 

そして、企画をよりそのエリアの人々の価値観やライフスタイルに沿ったものとするために、当該エリアで公・民・学連携で街づくりを行うUDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)にヒアリングを行い、地域の状況を踏まえた企画のブラッシュアップしています。

そして生まれたのがみんなの願いを集めて育てる”柏の葉 wish tree”です。これは、これまでまちづくりに参加してこなかった人をメインターゲットとし、見知らぬ人の願いを垣間見るささやかな交流を生み出し、同時に短時間で手軽な意見収集を行う仕組みとして制作・実験企画しました。行政アンケートで取る陳情や要望以外の、シンプルな「こうあって欲しい」というやわらかな意見を取り込むことを目指しています。「まちづくりに役立つ基礎情報の収集」と「幅広い主体の気軽なまちづくりへの参加」をシームレスに繋ぎ、同時に満たすために、参加者が気軽に参加でき、まちづくりに役立つ情報も提供できるような、デザイン的な配慮も行いました。
 
さらに、この企画では「葉っぱに願いを書く」というオフラインの方法に加えて、オンラインフォームも日・英で準備し、オンライン・オフラインで集まった全ての願いをMiroに集めて可視化する試みも行っています。その結果、最終的に372件の願いが集めることが出来ました。
 


 
柏の葉 wish treeのまとめサイトはコチラ
 

成果として、気軽な市⺠参加の仕組みをデザインすることでサイレントマジョリティへのアクセスができ、まちづくりのビジョン・理念作成やまちづくりに向けたインプットに利用に使える情報を得ることができました。
 

社会課題解決に向けた公民学連携の共同研究へ

イノラボとの共同研究は21年7月に終了し、現在IEDPの活動は幅広く企業と連携を目指していく第2フェーズに移行しています。詳しくはコチラ
 

イノラボでは、今後も大学や学生、さらにはさまざまな企業とコラボレーションをすることで、一歩先の未来実現へ向けたオープンイノベーションを引き続き推進します。