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米国発ライドシェアプラットフォーム「rideOS」のAPIを叩いてわかったこと。~来たるべきMaaSの未来~

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    2020/05/21
     

    ライドシェアの生まれた街、米国サンフランシスコで2017年に設立されたスタートアップ企業「rideOS」。どの車がどの乗客をピックアップするのかなど、ライドシェアの基本アルゴリズムを誰でも使えるように提供しています。有人運転と自動運転の両方を想定した、モビリティサービスの管制塔のような役割を目指し、システムを開発中の同社。イノラボはそのテクノロジーに注目し、日本での適用可能性を検討しています。プロジェクトを統括する森田浩史に、日本での導入の課題や今後の展望について聞いてみました。

     

    森田浩史
    チーフプロデューサー

     

    国内MaaSの将来を見据え、サンフランシスコ発ライドシェアアルゴリズムに着目

    必要なときだけ料金を払い、自動車を含む移動手段を“サービスとして”利用する「MaaS(Mobility as a Service、マース)」 。国内では、自家用自動車を有償サービスとして活用するライドシェアに規制(※1)がある中、イノラボはいち早く観光型MaaSの将来性に着目。2019年10月~12月末には奈良県で実証実験(※2)も行ってきました。

     
    (※1)「道路運送法第78条」。例外は災害のため緊急を要する場合、市町村や特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が、公共の福祉を確保するため区域内の住民の運送などを行う場合。
    (※2)飛行機とリムジンバス、奈良市を周遊するバス、タクシーなどの交通機関をスマートフォンで検索・予約・決済できるようにする、観光型MaaS「くるり奈良」。2019年10月1日から12月末にかけて実証実験を実施した。インバウンドの訪日観光客の移動の利便性を高め、周遊や滞在時間の拡大を促すことを目的に、電通国際情報サービスとデンソー、奈良交通、米企業のActiveScaler、一般社団法人「運輸デジタルビジネス協議会」の5者で連携した。 https://innolab.jp/work/5075

     

     

    アメリカでUber(ウーバー)やLyft(リフト)などのライドシェアサービスが一般的になっているように、いずれ日本にも本格的なMaaSの波がやってくる。来たるべき未来に向けて、イノラボが今から取り組むべきことは何か――。
     

    そう考えていたときに知ったのが、サンフランシスコのスタートアップ企業「rideOS」です。サンフランシスコに駐在する元イノラボメンバーとMaaS領域の先端企業をソーシングしていたときに発掘した会社の一つです。

     

    rideOSは、Uberからスピンアウトしたメンバーが集まっている会社で、ライドシェアサービスの根幹となる仕組みをSaaS(Software as a Service)で提供しています。米国の大手自動車メーカーとの協業や、シンガポールのスマートシティプロジェクトへの参画などを経て急成長していました。そこで、同社のAPIを確認するなど、サンフランシスコで簡単な技術調査をしました。すると、乗る人と乗せる人のマッチングや、目的地へのスムーズな移動を、1日で問題なく設計することができました。「こんなに簡単に動くなら、日本でもやってみよう」こうして始まったのが、rideOSの日本でのフィジビリティスタディプロジェクトでした。

     

    有人運転と自動運転が共存する世界で、ライドシェアサービスを考える

    イノラボは、新しい技術をいち早く検証し、価値を提案し、社会に実装していくチームです。今回のプロジェクトでも、乗る人、乗せる人をアプリ上で疑似的に設定し、「乗ります」というリクエストに対してきちんとピックアップできるか、といった検証をなんと1ヶ月で実施してしまいました。

     

    このプロジェクトでまずわかったのは、rideOSのルーティング機能のクオリティです。
    管制塔として、通れない場所を避け、優先して通るべき道を正確に案内する。乗りたい人が複数いる場合、それぞれの位置情報から、もっとも効率的なピックアップの順番を瞬時に判断する。このような経路決定アルゴリズムは、ライドシェアのコア技術となりますが、まずそこがしっかりできていることが判りました。アメリカではUberやLyftを正確に動かすために、膨大なデータ分析と検証に投資し、開発を重ねています。ライドシェアが許可されていない日本で、このアルゴリズム開発をいちから始めるには、莫大な投資が必要になるので、rideOSの活用目処が立てば、そのような多大な投資を回避することができるのです。

     

    また、私が惹かれたのは、rideOSが目指す「有人運転と自動運転の両方を想定した、モビリティサービスの管制塔」というビジョンです。自動運転車は交通事故のリスクを避けるため、当面は、例えば30~40㎞/h程度の低速で走行になるでしょう。また、ルート選択の際に自動運転車は入り組んだ小道を避ける必要があるかもしれません。rideOSは、有人運転・自動運転の特徴を考慮し、乗る人の目的地や時間、コストなどさまざまなニーズと組みあせながら、最適な移動手段を提案することをゴールとしています。

     

    ライドシェアはユーザーにとってはベネフィットが大きく、個人的にも日本でぜひ普及してほしいと思っているサービスです。rideOSはまだ開発途上のスタートアップですが、人と自動車の新しいあり方を見据えたビジョンに、わくわくしています。

     

    地域交通や企業単位のライドシェアサービスが私たちの生活を変える

    一方で、rideOSをベースに具体的にビジネスを考えてみることで、様々な課題が見えてきました。最初の壁は、マップデータです。例えば、私たちが普段当たり前のように無料で使っているGoogle Mapは、Googleが独自に所有しているマップデータです。Google以外の事業者の場合も、日々地図情報をアップデートし、それをさまざまなサービス事業者に有償で提供しています。ライドシェアサービスを始めるには、このような地図事業者から購入する地図データのコストを上回るビジネスモデルを構築しないといけません。

     

    有償の地図データを使わない場合には、オープンソースを活用するという手があります。例えば、「mapbox」という地図プラットフォーム。これは、Wikipediaのようにみんなが情報をアップロードしていくもので、mapboxを利用できれば、初期投資を抑えて、乗車地点や目的地などの正確な位置情報を表示できます。ただ、残念ながら現時点では日本ではmapboxがあまり浸透していません。ですので、mabboxを浸かるとなると、自分たちである程度地図をメンテナンスする必要があるのです。この辺が「ライドシェアサービス提供」というアクションを簡単に起こしにくい理由でもあります。

     

    日本では、ライドシェアは移動に不便を感じる高齢者や子ども向けの地方に求められるサービスとの文脈が多いですよね。地方でライドシェアサービスが提供できれば、例えば免許を返納した高齢者もこれまで以上に自由に移動できるようになり、QoLの改善にもつながると言われています。ただ、ライドシェアサービスは、そもそも採算を取るのが難しいビジネスでもあります。需要と供給が見込める東京などの大都市をターゲットとするのか、赤字バス路線などを抱える地方の課題を解決するべきなのか、なんとも悩ましいところです。

     

    少し視点を変えると、企業向けのライドシェア、というサービスも考えられます。サンフランシスコでは家から会社まで複数の社員をピックアップして相乗りしたり、会社の複数拠点を行き来する際、一緒に行く社員を募って相乗りしたりというサービスがあります。社員は満員電車のストレスを避けられ、移動時間を短縮して時間価値を最大化できますし、企業側は社員の交通費削減や従業員満足度の向上につなげられます。ライドシェアと乗り合いバスの中間に位置するこのようなサービスに、可能性があるかもしれません。

     

    rideOSのプロジェクトは、まだまだ始まったばかりです。規制やビジネスモデルの難しさがあるものの、有人運転と自動運転の共存する世界を、日本でも提示していきたいと考えています。社会課題を解決するためのテクノロジー活用を具体的に考え、実装していくことが、イノラボの価値ですので。