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「私とお話しませんか?」ヒト型AIアシスタントが街ゆく人に話しかける!? ~バーチャルヒューマンエージェント(VHA)を用いた次世代UIの検証プロジェクト~

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    イノラボはかねてより、未来の街における次世代メディアの研究開発を進めており、その一環として、VHAの技術を持つクーガー株式会社と共同で、2019年6月29日(土)と30日(日)の両日に実証実験を行いました。場所は、京王電鉄株式会社のご協力のもと、東京都調布市にある商業施設「トリエ京王調布」で実施いたしました。

    実験概要

    IoTやAI、5Gなどさまざまな技術革新が進む中、それらの技術と人をつなぐユーザーインターフェース(UI)も同様に進化を続けています。今では、スマートフォンやスマートスピーカーなど、タッチするだけ、話しかけるだけといった、より簡単な操作のUIが登場していますが、イノラボでは、未来のUIの理想は「人間同士に近いコミュニケーションを実現すること」ではないか、と考えました。これは、UI自身が人間らしい表情や動きを見せ、自ら会話のきっかけをつくり、能動的な発話を交えて受け答えするなど、私たちが普段行っているようなコミュニケーションで人と機械が様々なやりとりを行う未来です。

    現在のVUI(ボイスユーザーインターフェース)のような「言葉による操作」だけではなく、表情や感情、動きといった非言語情報も 含めた相互コミュニケーションで生まれる「人と機械の意思疎通」が、究極的に自然なやりとりと言えるUIではないか。

     

    そんな未来を目指して、イノラボはクーガー社と共同で、バーチャルヒューマンエージェント(VHA)のプロトタイプを開発し、京王電鉄株式会社のご協力のもと、東京都調布市にある商業施設「トリエ京王調布」を舞台に、実際の街中で実証実験を実施しました。


    左は、京王線調布駅に直結するトリエ京王調布のA館。右は、A館から徒歩5分程の距離にあるC館。実証実験はC館前で実施。

     

    実験の実施にあたり、街が持っている課題のヒアリングや、エスノグラフィー(人の行動観察)を行い、そこから得られたインサイトから、VHAの会話内容や設置場所、コミュニケーションフローなどをデザインしました。そうして生まれたVHAが「調布に詳しいおしゃべり好きなお姉さん」のレイチェルです。

    実証実験で使用したVHAのレイチェル。カメラによって周囲の状況を確認し、通りすがる人に挨拶をしたり、立ち止まっている人に 自己紹介を行うなど能動的なコミュニケーションを図り、反応してくれた人に対しては動きを交えて会話を続ける。

     

    レイチェルは、挨拶や仕草で通りがかる人の注目を引き、人を認識したら能動的に自己紹介するなど、コミュニケーションのきっかけをつくります。その中で、調布に関するあまり知られていないことをクイズ形式で提供するなど、対話をリードしながら、街の活性化に寄与する地域の隠れた魅力や情報を楽しく伝えます。



    人通りは多いが、駅や目的の店に向かって足早に通り過ぎてしまうA館よりも、憩いの場があり、笑顔や会話が多く、マインドがオープンに見えるC館に設置したVHA。情報提供の仕方も「楽しんでもらうこと」を意識してデザインした結果、多くの人にコミュニケーションしていただきました。

     

    今回の実験では、VHAに対する印象評価や社会受容性検証の他に、「VHAとのコミュニケーションによって人の行動に変化をもたらし得るか」を併せて検証するため、会話上で記念撮影を催促したり、少しはなれた場所への移動をお願いする、といったことも試みました。その結果、多くの方にレイチェルからのお願いを快く聞いていただきました。




    一緒に記念写真をしたり、特製ステッカーを少し離れた場所でお渡しするなど、レイチェルからのお願いも聞いていただけました!

     

    コミュニケーションを行なっていただいた方にアンケートを行なった結果、レイチェルの見た目や会話の印象に対して「面白い」「楽しい」「かわいい」といったポジティブなご意見が多く見受けられ、レイチェルとの会話の中で「調布に関して初めて知った情報があった」と答えた方が7割を超えるなど、VHAのUIとしての有効性が感じられる結果となりました。



    実験を終えて

    今回の実証実験では、VHAプロトタイプに対する一定の受容性や有効性を感じられる結果を得ることができましたが、この取り組みを通じて改めて気付かされたのは「子供の好奇心」でした。SiriやAlexaなど、現在のAIアシスタントにも言えることですが、やはり機械と会話をするという行為は、特にパブリックな環境では周囲の目が気になったり、少し気恥ずかしい気持ちになる方がまだまだ多くいるかと思います。今回の実験でもそのような思いを出来るだけ無くすために、エスノグラフィーを通じた環境的な配慮を心がけましたが、VHAに声をかけられた多くの子供はそんな素振りも見せず、元気に挨拶を返したり手を振ったりと、コミュニケーションを積極的に図ろうとする様子が伺えました。ここから推察するに、VHAのような「AIとのコミュニケーション」を軸とするUIを社会実装する過渡期には、子育てや幼児 教育、あるいはエンタメ施設のような環境が特に有効なのではないかという印象を受けました。

    イノラボでは今回の検証結果を踏まえ、今後はさらにその場のユーザーの状況や特性に応じて、個別最適化された情報提供を行えるようなUIの研究を進めていく計画です。

     

    text:鈴木貴裕