オンラインCESはwithコロナ社会の在り方を再び問いかけた

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オンラインCESはwithコロナ社会の在り方を再び問いかけた

2021年1月11日から14日までメイン開催、2月15日まで展示開催されていたCES 2021が終了しました。今年はCOVID-19の影響によって初のオンライン開催となり主催・展示側の試行錯誤が垣間見えたCES。内容自体は既に様々なWebサイトで発信されておりますのでそちらをご確認ください。
本記事ではCES 2021が終了した今、CESや展示が問いかけてきたことやそこから今後テクノロジーが向かう先の予想・想像を記載します。

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若園祐作
体験設計士 (Experience Architect)[/su_column][/su_row]

ずっとstay homeする準備はできているか

今回のCESでは多くの企業がCOVID-19への対応を考慮・アピールしていました。昨年まではどちらかというとサブグループのような扱いを受けがちだった”Digital Health (Health Tech)”は大きく注目され、いかに自宅で快適に過ごすかに焦点が当てられた製品紹介も目立ちました。大型テレビを用いた在宅フィットネスコーチなど、おもしろいけれどあまり使われないとこれまでは思われがちだったものも、社会情勢の変化により利用シーンが想像しやすくなったことも大きいでしょう。
一部の企業の発表は、こういったstay home対応の製品・サービスを一過性のものではなく、これからずっと使い続けるもの、stay homeを維持し続けるために必要なものと位置づけているように感じられます。もちろんその方が必要性を訴求できるからという側面はありますが、”あなたは今、永久にstay homeする準備ができているか?”という問いかけにハッとさせられる方は少なくないのではないでしょうか。


stay homeで課題となるのが運動。テレビ+カメラでヨガのコーチングを行うソリューションやApple Watchを全身運動のトラッカーとして応用するアプリなどがより注目されるのはこの時代だからこそ。

私たちは新型感染症に対処するためにstay homeすることを、心のどこかで一時的なこととして捉えがちです。COVID-19に限って言えばワクチン接種も今後進み、感染と重症化の恐怖に怯える日々はそのうち終わると期待できるかもしれません。しかし今回の騒動で見えたことは、COVID-19に限らず新型感染症に対する社会の脆弱さです。5年後10年後、再び未知の感染症が日本や世界で猛威を振るい、ワクチンや特効薬の開発までstay homeを強いられる未来が来ない保証はありません。もうしばらくの間はテクノロジーがstay homeを少しでも無理強いや我慢から遠ざけ、誰もが持続可能なものにするための希望として使われていくでしょう。

私たちイノラボも昨年よりwithコロナ、ポストコロナ時代に必要なテクノロジーと提供価値を考えるプロジェクトを複数立ち上げ、現在も実証実験などの活動を継続しています。これらのプロジェクトやその発展形がCOVID-19への対処だけではなく、未知の新型感染症対応に人類とテクノロジーがどう立ち向かっていくかに貢献できればと願っています。

 

人ではないことが価値になる時代

政府資料をはじめ多くの市場予測資料の記載によると、更なる効率化要求や人手不足・高齢化のような社会問題を背景として、サービスロボット市場は今後製造用ロボット市場を抜き去る勢いで激増していきます。2025年頃には大手企業の店舗にロボットがいることが当たり前になるかもしれません。そういった流れもあってか、CESでもロボティクス関連の出展数(232)は5G(215)やXR(228)の数を超えています。
Samsungのロボットコンセプト発表をはじめとして、COVID-19時代のCESで見えてきた新たなロボットの価値が「人ではない者によるサービス」です。特に日本では、サービスは人が心を込めて行うものであって、ロボットがそれを代替するなんてサービスの劣化、あるいはサービスではないという価値観も存在するかと思います。しかし、実際に人がサービスすると感染症のリスクがある現状、人の手によるサービスが本当に一番良いサービスなのでしょうか。あるいは感染症と関係なく「店舗で接客されたくない」というニーズが若者を中心に目立つ中、人が心を込めたサービスはありがた迷惑になり得るのではないでしょうか。


Samsungは汎用ロボットアームを日常に持ち込み、コンシェルジュのような役割を担わせうることをコンセプトモデルで示した。

ISIDは主にソフトウェアを扱う会社ですが、私たちイノラボではロボティクスも研究開発テーマとして扱っています。今までは動かないことが当たり前だった様々なモノを、ロボティクスで動かすと人の生活や社会はどう変わるでしょうか。これまで人が行っていたいくつものサービスのうち一部は、もしかすると身のまわりの家具が行ってくれたほうが自然かもしれません。

 

訪問者の行動やニーズに必ずしもマッチしないオンライン展示会の現状

CES 2021は規模の面でも費用面でも世界最大級のオンライン展示会と言っていいでしょう。わざわざラスベガスに行かずとも、生活時間を現地のタイムゾーンに合わせずとも、全世界から同じ情報を得ることが可能になりました。Keynoteを中心とするセッションでは見逃し配信だけでなく再生速度調整や字幕翻訳も備わり、私たち日本人にとっては非常にハードルの下がった、優しい場になりました。そんなCESですが周囲の方々に聞くと、ワクワクしない、頭に入ってこない、盛り上がりがわからないなど、ネガティブな意見も少なからず出てきました。やはりオンライン展示会にはまだまだ改善の余地があると感じます。

今回、VR技術を活用したバーチャルブースが大手企業の”マイクロサイト”(CES管轄外で製品等を紹介する特設簡易Webサイト)を中心として積極的に導入されました。今どき感を演出し、目を引くコンテンツではありますが、ブラウザの中のバーチャル空間でマウスを何度もドラッグしたりしてようやく辿り着いた先にはYouTube動画やPDFファイルがあるだけ、というブースも少なくありません。これでは通常のWebページよりも単に満足度や情報へのリーチ率が下がってしまうだけとなる恐れがあります。バーチャルブースによってお客様に何を提供するのか、バーチャルブースを導入するだけの価値があるコンテンツを用意できるのかが重要です。


バーチャルブースの価値である実在感を体験に落とし込むことは難しい。CES 2021においても、通常のWebページでの紹介でよい情報ばかりを提供するブースが目立った。

CES 2021で特に大きな課題となったのは展示会の本質的価値のひとつとも言える、出展者や製品との“セレンディピティ=偶然の出会い”です。CESを実際にご覧になった方は実感されたと思いますが、展示へのリンクリストは会社名とロゴのみの表示で、大まかなカテゴリーで絞り込みができる程度のUIでした。実際に会社名をクリックしなければどんなワクワクする発表がされているのかわからないという状況では、セレンディピティは生まれようがありません。来年のCESは現地開催とオンラインとのハイブリッド形式が予定されています。それまでにCESやオンライン展示会がセレンディピティとどう折り合いをつけるのか、注目されます。

Header image : Rafael Henrique – stock.adobe.com