市民との合意で進める街づくり。バルセロナ視察から構想するスマートシティのあり方

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2020.08.14
 

イノラボでは、「街づくり・地方創生」領域で先端技術を使った新たなソリューションの創出に取り組んでいます。その一つが「スマートシティ構想」。デジタル活用が注目されるスマートシティですが、欧州では、市民参加による合意形成、市民の生活の質(QOL)向上が重要なテーマになっています。
Vision Tech Lead・藤木隆司が、2019年11月にスペイン・バルセロナ市で開催されたスマートシティワールドエキスポ(Smart City Expo World Congress 2019)とバルセロナ視察結果を報告。各国の事例も紹介しながら、これからのスマートシティのあり方を考えます。

 

藤木隆司

 
 
 
 
藤木隆司
Vision Tech Lead

スマートシティワールドエキスポ2019で世界事例を学ぶ

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)の融合により、私たちの暮らしをより便利に、より豊かにしていく――。新たな未来社会構想「Society 5.0」の実現に向けて、イノラボではスマートシティ研究を進めてきました。

 

その一貫として参加したのが、2019年11月にスペイン・バルセロナで開催された「スマートシティワールドエキスポ(Smart City Expo World Congress 2019)」です。このエキスポは、「世界中の都市におけるイノベーションを集約し、共有するための展示会」として、スマートシティ構想の先進都市・バルセロナで、10年前から毎年開催されています。

 


社会的イノベーションの促進、パートナーシップの確立、ビジネスチャンスの創出を通じ、世界中の都市と市民のより良い未来の創造に貢献することを目指している
(出典: http://www.smartcityexpo.com/en/the-event/past-editions)

 

出展者は、世界中の国や地域の自治体関係者、スマートシティ向けのプラットフォーム開発事業をはじめとするIT企業など1,010社。146か国・700都市以上から約24,000人の来場者が訪れました(開催期間11月19~21日の3日間累計)。

 


さまざまな国や地域のスマートシティの取り組み、スマートシティ関連技術の発表など、最先端の情報を得ることができる

 

そもそもスマートシティ構想とは、「ICTなどの新技術を用いて、生活インフラや環境整備による生活の質の向上を目指す」取り組みを指します。

 

世界的に知られたスマートシティの事例といえば、Google傘下のSidewalk Labsによるカナダ・トロント市、Alibabaによる中国・杭州市があります。スマートシティには、巨大IT企業が、街全体のデジタルデータを収集・活用し、暮らしを便利にしていく…というイメージを抱きがちですが、デジタルデータはあくまでも市民のQOL(Quality Of Life)を高めるためのもの。自治体が抱える問題をどう解決していくのか、その方法にはさまざまな選択肢があります。

 

世界のスマートシティ・ランキング(The IMD World Digital Competitiveness Ranking 2019)では、1位にシンガポール、2位にチューリッヒ、3位にオスロと続きますが、ほかの団体のランキングでは、ロンドンやニューヨークが1位になっている。それぞれ指標によって街の見え方が異なっていることも、スマートシティのあり方が多様であることを物語っています。

 

未来のスマートシティを表現しているのは?


エキスポ内で行われた講演で問われた、「未来のスマートシティの理想の姿とは?」。テクノロジーが発達した近未来の街のイメージと、自然との共生を進めた街のイメージを示され、スマートシティのあり方の多様さを考えさせられる(発表資料をもとに作成)

 

今回エキスポが示したのは、スマートシティが地域に変化をもたらす5つの領域で、「デジタルトランスフォーメーション」「モビリティ(移動・交通手段)」「ガバナンス&ファイナンス(政治と金融)」「都市の環境問題(Urban Environment)」と「多様性の発揮(Inclusive&Sharing cities)」です。多様な人々を包括し、取り残される人を作らずに、みんなで街を共有していく。こうした考え方が、スマートシティのテーマになりうるのだという提示は、非常に新鮮なものでした。

 

ストックホルムやバルセロナの事例が示す、市民参加型のスマートシティ化プロジェクト

エキスポではいろいろな国や地域の具体的な取り組み、サービスが紹介されました。
行政や金融手続きの自動化や、災害時の情報連携サービスのほか、大気汚染を防ぐために、駐車場の空き状況を共有し交通渋滞を解消したり、節電のために、人が通っていない場所を感知し街灯を自動で落としたりと、あらゆる観点で、便利でエコな街づくりのアイデアが報告されています。

 

中でも印象的だったのは、欧州の各地域が取り組む「市民参加」の街づくりです。市民とデータ活用を一緒に考えていくことで「Citizen Engagement(市民の街への思い入れ)」を高める。その取り組みの一つが、ストックホルムの事例です。

 

ストックホルムでは、街全体を3Dモデル化し都市計画を立てる上で、ドローン飛行・撮影による大規模データの収集に乗り出しました。そのプロセスでは、全市民が誰でも参加できるオンラインの集会を開き、集めたデータ活用によりどのような都市計画が実現できるのか、交通整備など市民に対してどんなメリットがあるのかを説明。メリットとデメリット(リスク)をきちんと伝えることで、市民がドローン飛行の価値に納得できるよう議論を進めていきました。

 

ほかにも、バルセロナはウェブ上のプラットフォームを使って、市議会の決定過程を可視化したり、市の予算の一部を住民が提案して投票できる仕組みを持っています。自分が出したアイデアが具体的にどう自分に返ってくるのかが見えやすいのです。

 

デジタルデータ化で懸念されるのは、「個人情報をとられて、それがどう使われているのかわからない」という市民の不安です。欧州では、その不安を、一人ひとりが議論に参加して、意思決定をすることで払拭しており、このプロセスを、とくに重視している印象を受けました。

 

エキスポを離れ、バルセロナの街を実際に歩いてみると、環境問題対策への工夫が随所に見られました。有名な取り組みとして、自動車が走れる区画を制限した “superblocks”(アーバン・エコロジー・エージェントのSalvador Rueda氏が提唱)があります。

 

これは、バルセロナオリンピック(1992年)で区画整理された街を4分割し、内側の道路を通る際は速度制限を設けるというものです。交通制限のかかった十字路には、公園やベンチ、陸上競技場のようなトラックを作るなど、人々の生活空間・公共スペースとして、街をデザインしています。

 

車優先ではなく、そこに集う人の生活を優先する。この取り組みによって交通量は激減し、交通渋滞や排気ガスの削減につながっています。

 


車が自由に走れるのは赤い丸の部分のみ。青い丸の部分に、カフェやスポーツできる施設を作り、交通渋滞問題の解決につなげた(出典:https://barcelonarchitecturewalks.com/superblocks/)

 


バルセロナでは、「都市は人工的なものでなく生態的なもの」という概念に基づき、2005年に「都市生態学庁」が設立されている。“街は暮らしを営む場所”という考え方が、都市計画のベースにある


かつて自動車が縦横無尽に走っていた道路。陸上競技場のようなトラック、公園を作り、排気ガスに気にせず体を動かせるようになった

 

最近の新たな取り組みとしては、街中がどれくらい緑化されているのかをデータで示すBCNマッピングプロジェクトも注目されています。これは、赤外線カメラや光学カメラといった複数のセンサで街中をスキャンし、点群と呼ばれる3Dデータと、植生指数(NDVI)と気温を測るというもの。緑が多いエリアは涼しいと思われがちですが、本当にそうなのか。心地よい気温を保つにはどれくらいの緑化が必要なのかをITデータで精緻に測定・検証し、都市計画に役立てるという取り組みです。

 

都市計画をきちんと数値に基づいて進めることで、確実な都市環境改善につながる。データ活用の理想的な形であり、ぜひ日本でも取り入れていきたいと感じました。

 


バルセロナ市とベンチャー企業Noumena社によるプロジェクト。特殊なカメラを街中に走らせ、3Dデータをとる(出典:https://noumena.io/bcn-mapping/)


3Dデータから植生指数を出し、これからの都市緑化計画につなげる

スマートシティ化で自治体と企業をつなげ、市民のエンゲージメントを高めたい

市民との議論を深め、市民のエンゲージメントを高めていく欧州の取り組みは、日本のスマートシティ化を考える上で大事な示唆がたくさんあります。

 

少子高齢化を生きる今、高齢者のコミュニティ参加、生活利便性の追求は重大な課題です。加えて、20~30代の若者が日本を支えていく中、若者の政治離れもまた深刻な問題だと捉えています。自分の街づくりにかかわるということは、政治参加のもっとも身近な形。街づくりを楽しみながら、自分たちの課題を自分たちで取り組む姿勢へとつながっていけばいいなと考えています。

 

スマートシティ化に向け、住民のニーズを検証し、議論できるプラットフォームを作るなど、QOLを高めるソリューション提供は、これからの自治体の課題となるでしょう。イノラボは、リアルとサイバーが両立できる仕組みづくりを、自治体やさまざまなパートナー企業を進めていきたい。エンゲージメントの分野で、先進的なベンチャーと自治体をつなぎ合わせていく動きができればと思っています。